内容
あるところにとても怖がりで情けないほど意気地のない男がいました。
男は機織りの仕事をしていましたがその材料である葦が風に揺れる音でさえも驚いてしまうような意気地なしです。
ある日男が飼っていたロバの姿がなくどこを探しても見つかりません。とうとう日が暮れ始めました。
妻にロバを探してくるように言われた男は薄暗い中恐る恐る茂みに入ってロバを探しました。
茂みの中で何かガサゴソと動く姿を見つけると男は急いでそれにまた彼に家路に着きました。
家に着きロバを連れて帰ったことを知らせると妻があかりを持って出てきました。
そこで明かりに照らされたのはなんと立派な牙を持つ巨大なイノシシだったのです。
妻はイノシシをロバの小屋につなぎました。意気地なしの男は震え上がり妻に嘆きました。
こんなことが起きるなんて私は死んでしまうに違いない。
妻は大変驚きその理由を聞きました。こんな巨大なイノシシを捕まえたなんてすぐに王様に知れ渡るさ。そうすれば王様は私を連れてくるように命令するに決まってる。
そして私に無茶な仕事を言い渡し、それができなければ死刑になってしまうかもしれないからさ。
次の日早速この出来事は王さまの耳に入り、王様は家来に男とイノシシを連れてくるように命じました。
「一体どのようにして巨大なイノシシを生け捕りにしたのか」と王様に尋ねられると男は震えながら答えます。「ロバのようにまたがって連れて帰りました。」
それを聞いた王様は何と勇敢なんだと感心して男に褒美を持たせました。
男は沢山の褒美を手にして家に帰りましたが、また震えながら妻に言います。
こんなことになってしまっては私はやはり死んでしまうに違いない。
王様に命がけの仕事を任されるに決まってる。
数日経ったある日通りにライオンが徘徊するようになり、商人たちの荷馬車が通れなくなってしまいました。
家来は王様に提案します。イノシシを乗りこなし見事生け捕りにしたあの男こそライオン退治に適任です。
王様は早速命令します。お前にライオン退治を命ずる。必要なものがあれば用意しよう。
そうして男は王様に40人の兵隊を用意してもらいました。
兵隊が40人もいれば彼らがどうにかしてくれると思ったのです。
これで自分が命を落とすことはないだろう。
男は兵隊を連れてライオン退治に向かいました。
私が助けを呼んだらすぐに飛んでくるように。
男は兵隊にそう命じると池のそばにある茂みに待機させました。
そして男は自分は襲われまいと1本の木の上によじ登り、ライオンが出るのを待ちました。
しばらく待つと池のほとりにライオンが現れました。
水を飲みに来たようです。男は足元にいるライオンに震え上がり、登っていた木のさらに上へと登ります。
そして細い枝をつかむと不運なことにそれが折れ、こともあろうにライオンの上に真っ逆さまに落ちたのです。
男は必死にライオンの背中にしがみつくと大声で助けを呼びました。
「助けてくれ!」
控えていた兵隊たちは急いでライオンを取り押さえると男を乗せたまま、王様のもとへ帰りました。ライオンにまたがる男を見た王様は、兵隊たちから男が素手でライオンを捕まえたことを聞くと、なんと勇敢なんだと感心して男に褒美をやるように命じました。
男はさらに多くの褒美をもらい家に帰るとまた妻に言います。
こんなことになってしまってはとうとう私は死んでしまうに違いない。
王様はもっと危険な仕事を任せるに決まってる。
それからしばらくすると西の国から軍隊が攻めてきました。
西の国王は想像を絶する多額の金品を要求してきたのです。
家来は王様に提案します。あの勇者に行かせましょう。ライオンさえも生け捕りにするあの方ならきっと我が国を勝利に導くでしょう。
そして王様の命令で男は馬に乗り、軍隊を引き連れて西を目指して出発しました。
その道中で男は葦を見つけました。
それを見た男は自分の仕事のためにと葦を刈り取り馬に乗せておきました。
それを見た兵隊は疑問に思いながらも同じように足を刈り取り、自分の馬に乗せていきます。
男たちがさらに進むと道は沼で遮られて進めなくなりました。
男は仕方なく先ほど刈り取った葦を沼に投げ込むと家来たちもそれを真似て投げ込みました。
すると葦で泥濘が解消され、まるで橋のようになりました。
男は馬に乗りその上を進んでいきます。
この様子を見た兵隊たちはなんと知恵のあるお方なんだと大変驚きました。
こうして男は西の軍隊にたどり着きました。馬から降りると男は急に身体が痒くなり、持っていた食料をその場に下ろすと服を脱いで体を掻き始めました。
それを見ていた兵隊も男をまねて馬から降り服を脱ぎ始めました。
すると西の軍隊の連れていた犬が食料をめがけて飛び出して来ました。
犬が男の食料を加えて帰ると、男はそれを取られまいと剣を振りかざし追いかけます。
それを見ていた兵隊も剣を抜き、一斉に犬を追いかけます。
西の軍隊は男たちが裸で剣を振りかざし、こちらに迫ってきている恐ろしい姿を見て大混乱に陥りました。
敵と味方がわからないほどの混乱になり、味方同士で戦い合っています。
男と兵隊たちは構わず犬を追いかけます。
逃がすな、捕まえろ!皆口々に叫びながら迫ってきます。
ますます混乱して同士討ちは止まず、とうとう1人も残ることはありませんでした。
そうしてたくさんの戦利品を持って男は王様のもとへ帰ります。
一足先に使者から勝利を聞かされていた王様は、この大勝利に大変喜び、家来を引き連れて王様自ら男を出迎えに行きます。
男は王様に出迎えられるときっとこの間抜けな戦いぶりにお叱りを受けついに罰を受ける時が来たと怖くなり馬の上でおしっこを漏らしてしまいました。
それに驚いた馬が突然暴れだし男は馬から落ちてしまいました。
王さまは驚いてそなたが馬から落ちるなんていったいどうしたのだ、と心配して訪ねました。
さて王様に尋ねられた男はなんと答えたのでしょうか?
王様に尋ねられた男は咄嗟に答えました。私は落ちたのではなく王様の前で馬に乗っているのは大変失礼だと思いまから飛び降りた次第です。
それを聞いた王様は何と礼儀の正しい勇者だと大変感心し、これまでにないほどの褒美を与え立派な衣装を纏わせると男を大臣に任命したのでした。
意気地のないどんな臆病者でも臨機応変に対応できる知恵があれば出世するチャンスがあるということを教えてくれている。
その場に応じてとっさに適切な対応や発言ができるような鋭い才能と知恵があれば、どんな局面でも乗り越えることができる。
望まないことでもチャンスになり得ることがあります。何事もまずは挑戦することで成功への入り口に立つことができるということ。