内容
あるラビが、バグダッドからエジプトへ長旅をしていた。旅のとちゅう、ラビは地中海に面した、ヤッフォの町の宿屋に泊まった。数日ゆっくり食べたり飲んだりして疲れをとると、また、エジプトへの旅をつづけた。
ラビはエジプトに着いてから、ヤッフォの宿を発つまえに食べた、たまご1個の代金を払い忘れたと気づいた。これでは宿屋の主人をだましたことになる、とラビは悔やみ、バグダッドに帰るときには、かならずヤッフォの宿屋に立ち寄ってたまごの代金を払おう、と自分に言いきかせた。
ラビのエジプト滞在は長きにわたった。それでも、ラビは自らに誓った約束を忘れなかった。
何年もたって、いよいよエジプトからバグダッドへ帰る道すがら、ラビはヤッフォの宿屋に寄った。そして、「だいぶ前になるが、ここで食べたたまごの代金を払いたい」と申し出た。
「たまご1個の代金を払いにきた、ですと?」宿屋の主人はむっとしていった。「あっしのことを、計算もできない阿呆だと、見くびっておいでのようですな。もし、そのたまごがかえってメンドリになっていたなら、そのメンドリがまたたまごを何十も生み落とし、その何十ものたまごからまたメンドリが生まれ、そのメンドリたちが何百ものたまごを産んでいたかもしれない…ということは、最低でも千羽のメンドリ分のお代を頂戴したいもんですな」
宿屋の主人はいいつのり、ついには、ラビを裁判所にひっぱっていった。
裁判官は宿屋の主人の訴えを聞き、ラビの話を聞き、それからたずねた。
「そのたまごは生であったのか?調理してあったのか?」
「もちろん、たまご料理ですから、調理してありました」宿屋の主人は答えた。
「調理されたたまごが、どうしてメンドリになるであろうか?」
裁判官の問いかけに、宿屋の主人はおどろきあわてた。そしてしゅんとうなだれて、逃げるように裁判所を出ていった。
欲張りすぎるとすべてを失う
たまご1個からその先メンドリが産むだろうたまごの数分まで請求するのは、パッと賢いことを思いついたと思うが、よく考えてみれば、そんなわけはないし、1個分払ってくれるという親切な人の意見を受け入れてもらっておけば少しは得になっていただろう。
そもそも食べられるたまごから、ヒナが孵ることはあるのか?
有精卵と無精卵があると思っていたのだけど。