Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【タルムード】キツネの仕立て屋

内容

むかし、ある山にキツネとオオカミがいた。あるとき、2匹は森でばったり出くわした。

「おまえさんは、なにをして暮らしてるんだね?」オオカミがキツネにたずねた。

「ヒツジの毛から布を織って、スーツを仕立てております」キツネは答えた。

「それはちょうど、都合がいい。上等なスーツがほしいと思っていたところだ。仕立ててくれるかな?」

「いいですとも。ヒツジを25匹とどけてもらえたら縫いましょう。ヒツジの毛をついて糸をつむぎ、その糸で布を織って、その布で最上等のスーツを仕立てましょう」

キツネは、ヒツジが25匹とどいたら、きっちり1か月後にスーツをわたす、と約束した。オオカミはよろこんだ。

つぎの日、オオカミはヒツジを25匹とどけた。だが、キツネは仕事にかからなかった。キツネ一家は、舌つづみを打ってヒツジをぱくつき、くる日もくる日もたらふく食べて、すっかり肥え太った。1か月たつと、オオカミがやってきた。

「スーツはできたかね?」

キツネはあわてていった。

「はい、ズボンはできあがりました。ですが、上着の分の毛が足りませんでね。あと20匹、ヒツジをとどけていただけたら、それから1か月のうちに、ぜんぶ仕上げます」

オオカミは承知して、ヒツジを20匹とどけた。

キツネの一家は、またヒツジをむしゃむしゃむさぼり食らい、毎日、のんびりすごした。1か月たつと、オオカミがスーツを受けとりにやってきた。

キツネはうろたえた。ほんとうのことをいえば、キツネはヒツジの毛をすいて糸をつむいだり、その糸から布を織ったり、ましてやスーツを仕立てるなんて、まったくやったこともなかったのだ。さて、どうやってオオカミに言い訳しよう?

キツネはすばしこく頭をはたらかせ、奥さんと子どもたちにいいきかせた。

「いいかい、オオカミが穴のそばにきたら、みんなで外に出て、お迎えするんだよ。それから、チビちゃん、しっかりおぼえておくれ。わたしが『オオカミさんのスーツを持っておいで』というから、そしたら穴に入って、もう、出てきちゃいけないよ。そのあと、お兄ちゃんにも『オオカミさんのスーツを持っておいで』というから、お兄ちゃんも穴に入って出てきちゃいけない。それから奥さん、あんたにも同じようにいうから、穴に入ってそのまま出てきてはいけないよ。最後に、わたしが、『みんなどうしたんだろう。おかしいですねえ。わたしが自分でスーツをとってきます』といって、穴に入る…」

そして、そのとおりにやった。

オオカミは、キツネの一家が順々に穴に入って、それきり出てこないのをみて、怖くなった。穴のおくのほうに巨大でおっかないケダモノがいて、穴に入ったら、自分までケダモノに襲われて食われるかもしれない、と思ったのだ。そこでオオカミはスーツをあきらめて、スゴスゴと自分の住みかにもどっていった。

キツネの一家は大よろこびした。

 

オオカミは穴が怖いのか?

オオカミは巣穴があってそこに住んでるイメージがあるけど、穴に入って出られなくなるのが怖いのだろうか?ケダモノがいるかもしれないという恐怖はどこからでてきたのだろう?キツネたちがただ出てこないだけとは考えないこのオオカミは、童話などで悪役が多い印象であるが、ちょっと素直で相手を信じる心もあるのだなと、印象が少し変わった。

逆にキツネはずる賢いというか、やったこともないことをできると宣言して、引き受けて、相手に諦めさせるところはうまいなと思う。相手に諦めさせる方法を思いつくには頭のやわらかさが必要だと思う。