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行動は言葉よりも雄弁

【インドの古い話】ネズミの恩返し

内容

話に出てくる、ボーディサッタとは「のちに仏陀になるはずの人」という意味で、お釈迦様の前の世の姿のこと。

むかしむかし、ブラフマダッタ王が、べレナスの都で国をおさめていたころのことです。ボーディサッタが石屋に生まれてきました。そして大きくなって、たいそう腕ききの石屋になりました。

そのころ、カーシーの国(べレナスと同じ)のある村に、金貨を4億ルピーも持っている、たいへんな大金持ちの商人がいました。その妻が死にましたが、この人は何よりお金を大事に思っていましたので、ネズミに生まれかわって、お金の山の上で暮らすことになりました。やがて、その家の家族がつぎつぎに死んで、一家残らず死にたえてしまいました。また、その村も、あれはて、すっかりほろびてしまいました。

このお話のできごとが起こったときには、石屋に生まれたボーディサッタは、その荒れはてた村のあとで、石を切り出してはきざんでいたのです。あのネズミは、餌をさがしに走りまわっている途中で、よく石屋を見かけました。そして、石屋がすきになりました。ネズミは、もし、じぶんが死んだら、じぶんの持っているたくさんのお金の秘密も、じぶんといっしょに消えてしまうのだと気がつきましたので、このお金を石屋といっしょに使って楽しむ方法を考えだしました。そしてある日、一枚のお金を口にくわえて、石屋のところへやってきました。それを見て、石屋はやさしくことばをかけました。

「おお、ネズミよ、なんでお金を持ってきたのかね!」

「このお金で、あなたがごじぶんのものを買ったり、わたしに肉を買ったりしてください。」

石屋はこころよくお金を受けとって、すこしお金をだして肉を買い、ネズミに持ってきてやりますと、ネズミはそれを自分の家へ持っていって、おなかいっぱいたべました。こうして、それからというものは、ネズミは石屋のところへ、まいにちお金を一枚ずつ持ってくる、石屋はそのかわりにネズミに肉を買ってやる、ということがつづきました。

ところがある日、このネズミはネコにつかまってしまったのです。

「どうかわたしを殺さないでください。」と、ネズミはネコに言いました。

「殺さないだって?」と、ネコは言いました。「わたしは腹がペコペコで肉がたべたいんだ。おまえを殺さないことには、ひもじくてどうにもがまんができない。」

「では、ちょっとおききしますが、あなたはきょう一日だけ肉がたべたいのですか?それとも、いつもたべたいんですか?」

「できることならいつだってたべたいさ。」

「それならば、わたしはまいにち、あなたに肉を持ってきてあげましょう。だから、わたしを逃がしてください。」

「それでは、わすれずに持ってこいよ。」と、ネコは言って、ネズミを逃がしてくれました。

このことがあってから、ネズミはじぶんで持ってきた肉を二つにわけて、半分はネコにやらなければならなくなりました。

ところが、ある日ネズミは、またべつなネコにつかまったので、同じような約束をして逃がしてもらいました。それでこんどは、まいにちのたべものを三つにわけることになりました。ところがまた、そのうちに、またべつのネコにつかまって、同じような約束をしたので、たべものを四つにわけることになりました。そのうちにまたべつのネコにつかまって、たべものを五つにわけることになったので、ネズミの分けまえはほんのぽっちりになって、ネズミは骨と皮ばかりにやせてしまいました。友だちがひどくやせおとろえてきたのを見て、石屋はどうしたのかとききました。それでネズミはいままでのことをみんな話しました。

「なぜ、もっと早くわたしに話さなかったのかね?」と、石屋は言いました。「元気をお出し。おまえの難儀を助けてあげよう。」

そう言って石屋は、よくすきとおった水晶のかたまりをさがしだすと、それに穴をほって、

「ここに、はいっておいで。そしてだれでも近くにやってきたら、うんとあくたいをついて、おどかしておやり。」と、ネズミに言いました。

そこで、ネズミは水晶の穴の中にはいって、待ちかまえていました。やがて、れいのネコの1ぴきがやってきて、肉をおよこしと言いました。

「出ていけっ、この性わるの、おいぼれネコめ。おまえなんかにたべものなどやるもんか。家へ帰って子ネコでもたべるがいい!」

このことばを聞いて、ネコはかんかんに腹をたてて、ネズミが水晶の中にはいっているとは知らず、つかまえてやれと、とびかかってきました。ところが、あまりにすごいいきおいでとびかかったので、ネコは胸をつよくぶっつけて心臓がやぶれ、目の玉が頭からとび出して、その場で死んでしまいました。ほかの4匹のネコたちも、順ぐりにみな同じような目にあって死んでしまいました。

それからのち、ネズミは心配ごとがなくなったので、石屋のしんせつに感謝して、まいにち金貨を、二枚も三枚も持ってくるようになりました。そして、ネズミと石屋は、かわらない友情にむすばれて、いっしょに暮らし、ついにこの世の生涯を終えて、それぞれのおこないにふさわしいむくいを得るため、この世を去ったということです。

 

自分から先に、相手にしてあげる

人に何かをしてもらうのを待つのではなく、自分から相手に何ができるのかを考えて先に動く。信頼口座の信頼残高を増やしておくことだと思った。日頃から自分だけがやっているという意識のもとに動くのではなく、奉仕の心をもって相手のために何ができるか考えてやってあげたいという気持ちのもとで行動する。

いつかその信頼口座の中身を使う日がきたら、それは自分がピンチのときだから、相手を頼る。相手もこれまでしてくれたことに感謝と恩返しの気持ちをもって助けてくれる。

普段何もしていない人が、急にピンチになったからといって助けてもらえない。日頃から先のことを考えて、信頼残高を増やす努力をしておくべき。