内容
ある日、キツネは袋を持って、クルミ林に出かけていった。なんのためにかって?もちろん、クルミをとりに。するとむこうから、近くの穴に住むクマが、同じように袋を持ってやってくるのが見えた。
「ここは、おれのクルミ林だぞ!」クマは大声で宣言した。「おまえは1個だって、とっちゃならん!」
「ただでクルミをとろうなんて思ってませんよ」キツネはいった。
「なら、どうしてここにいる?クルミをとるつもりじゃないのか?」クマは聞いた。
「お手伝いにきたんですよ。クマさんは木に登って、クルミをもいで落としてください。わたしはクマさんが落としたクルミを集めて、ふたつの袋に同じように分けてつめますから」キツネはいった。
クマは、なるほど、と納得して、キツネの申し出を受け入れ、木に登ってクルミの実を落としはじめた。さて、キツネはどうしただろう?キツネはクルミをぜんぶひとつの袋に入れ、もうひとつの袋には石をつめた。
クルミを落としてしまうと、クマは木をおりはじめた。キツネは大急ぎでふたつの袋の口を縄でしばった。クマが地面につくと、キツネはいった。
「このふたつの袋のどちらかをおえらびください。お好きなほうをどうぞ!」
クマは袋をひとつ持ちあげてみた。軽かった。もうひとつのほうを持ちあげると、ずっと重い。クマは重い袋をえらんで、いそいそと穴にもどっていった。キツネのもとには、クルミがいっぱいつまった袋が残った。
つぎの日、もっとクルミがほしくなったキツネは、クルミ林に出かけ、そこでまた、袋を持ったクマに出会った。
「ここから、出てけ!」クマはわめいた。「おれのクルミだぞ!おれが育ててきたんだ。おれだけの実だ!」
「どうか、そんなにわめかないでくださいな」キツネはゆったりした口調でいった。
「クルミをとろうなんて、考えてませんでしたよ。ですが、いまはクルミの収穫時期で、クマさんもおいそがしいでしょう。お手伝いさせてください。わたしほど、クルミのとりいれにむいている者はおりませんからね」
「おまえの手伝いがどういうものかは、わかってる」クマはうなった。「重い袋を背負って穴まで運んだら、なにが入っていたと思う?石だ!だから、だから、もうぜったい、おまえなんかに手伝わせるもんかって、誓ったんだ。手伝いなんていらん。けっこうだ!」
キツネは、腹を立てているクマにがまんづよくつきあい、それからいった。
「わたしがまたクマさんをだますかもしれないと思うんなら、役割分担を変えたらどうでしょう?わたしが木にのぼって、クマさんは木の下で袋を開けて、落ちてくるクルミの実を上手に受けとめるんですよ。そして、クルミを収穫しおえたら、手伝い賃としてわたしにも分けてください」
クマア考えた。キツネに仕返しできるチャンスじゃないか。あいつがクルミを落としおえたら、ひとつ残らずおれのものにして、キツネがおりてくるまえに消えちまえばいいんだ。復讐してやる!なんていい考えだろう!
「よし、いうとおりにしよう!」とクマはいった。「おまえは木にのぼって、クルミをもいで、袋めがけて落とすんだぞ!」
キツネはクマのたくらみを見破ったが、なにもいわずに木にのぼると、葉のあいだに隠れた。そこで、キツネはなにをしただろう?キツネはクルミをもいでは、そうっと音をたてずに殻をわって実を食べ、殻を上手にふさいで、下の袋の口めがけて落としたのだった。
「うまいぞ、うまい!」すぽっと袋に入るたびに、クマは歓声をあげた。「つぎのクルミも、袋のなかにうまく落とせよ!」
短気は損をしている
そもそも自分だけのクルミ林にしようとして欲張り、楽をして成果を得ようとするところが成長を止めているように思える。
また、前にしてやられたことに怒って、そのことばかりが頭にある状態では、そのことしか考えられていないから、頭を有効に使えていないように見える。自分だけが得をしようと考えていると大きく損をする。それは囲碁をしていく中で特に感じること。