Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【インドの古い話】あわてウサギ

話に出てくる、ボーディサッタとは「のちに仏陀になるはずの人」という意味で、お釈迦様の前の世の姿のこと。

 

内容

むかしむかし、ブラフマダッタ王が、べレナスの都で国をおさめていたころのことです。ボーディサッタがライオンの子に生まれ、やがて1人前のおとなのライオンになって、森の中に住んでいました。

そのころ、西の海の近くに、ヤシの林があって、その中にヴィルヴァの木もまじっていました。その林のヴィルヴァの根もとに生えている、小さなヤシのやぶのかげに、1ぴきのウサギが住んでいました。

ある日のこと、ウサギは餌をとりにいったあとで、ヤシの葉かげに寝ころんでいました。すると、ふとこんな考えが浮かんだのです。

(もし、この大地がこわれたら、わたしはいったい、どうなるだろう。)

ちょうどそのとき、よくうれたヴィルヴァの実が、ドサリとヤシの葉の上に落ちました。その音を聞いたとたんに、ウサギは(大地がこわれるところにちがいない!)と、思ったので、ピョンとはねおきるなり、いっさんに後も見ずに逃げだしました。

あわてウサギが顔の色を変えて、とんでいくのを見て、ほかのウサギが、なぜそんなに、あわてて逃げるのですか、とたずねました。

「そんなこと、きかないでくれ。」と言って、ウサギはなおも走り続けました。

「いったい、なにごとです?」と、言いながら、ほかのウサギもあとから追いかけていきました。あわてウサギはちょっと立ちどまって、ふりむきもせずに、「ほら、大地がこわれるところだっ!」と、言いました。それを聞くと、ほかのウサギもあとを追ってかけだしました。

そういうふうにして、1ぴき、また1ぴきとほかのウサギが、あわてウサギの逃げていくのを見ては、仲間にはいり、しまいには10万匹ものウサギがいっしょになって走っていきました。つぎにはシカ、そのつぎにはイノシシ、それからオオシカ、スイギュウ、ヤギュウ、サイ、トラ、ライオン、ゾウなどが、逃げていくウサギの大群を見ては、「なにごとですか?」と、たずねました。そして、「ほら、大地がこわれるところだ。」

という返事をきくと、いっしょになって逃げ出しました。そんなわけで、けものの列はしだいに長くなって、とうとう10キロ以上にもなってしまいました。

そのとき、ライオンのボーディサッタが、わきめもふらずに逃げていく大ぜいのけものたちを見て、そのわけをたずねました。そして、大地がこわれるところだからという返事をきいて、考えました。

(大地がこわれるなんていうことはない。きっとだれかが何か物音を聞いて、それを思いちがいしたのだろう。わたしが力をかしてやらなければ、あのけものたちはいまにみな死んでしまう。ひとつ、みんなの命を助けてやろう。)

そう思ったのでライオンのボーディサッタは、ものすごい速さでかけ出し、みんなより先まわりして、山のふもとへいき、そこに立って、大声で三度うなりました。ライオンのうなり声をきくと、けものたちはふるえあがり、走るのをやめて、1つにかたまりあったまま、じっと立ちどまっていました。ライオンはそのむれの中へはいっていって、なぜ逃げていくのかとたずねました。

「大地がこわれるところだからです。」と、みんなは答えたのです。

「だれが大地のこわれるところを見たのか?」と、ライオンがききました。

「ゾウがそのことを知っています。」と、みんなは言いました。

そこで、ボーディサッタは、ゾウたちにきいてみました。するとゾウたちは、「わたくしたちは知りません。ライオンが知っています。」と、言いました。ライオンたちも「わたくしたちは知りません。トラが知っています。」と、言いました。トラは「サイが知っている。」と言い、サイは「ヤギュウが知ってる。」と言い、ヤギュウは「スイギュウが知ってる。」と言い、スイギュウは「オオシカが知ってる」と言い、オオシカは「イノシシが・・・」と言い、イノシシは「シカが・・・」と言い、シカは「わたくしたちは知りません。ウサギが知っています。」と、言いました。そこでウサギたちにたずねてみると、ウサギは仲間の1ぴきをゆびさして、「このウサギがわたしたちに、そう言ったのです。」と、答えました。

そこでボーディサッタが、「ウサギさん、大地がこわれるところだというが、ほんとうかね。」と、たずねると、

「はい、ほんとうでございますとも。わたくしはそれを見たのです。」と、ウサギは答えました。

「それを見たとき、あなたはどこにいたのかね?」

「わたくしは海の近くの、ヴィルヴァの木のまじっているヤシの林の中におりました。わたくしがヴィルヴァの根もとに生えているヤシのやぶの、ヤシの葉かげに寝ころんで、(もしこの大地がこわれたら、わたしはどこへ逃げよう。)と、考えておりますと、ちょうどそのとき、大地のこわれる音がきこえたので、わたくしは逃げだしたのでございます。」

ライオンはそれをきいて、(これは、きっと、うれたヴィルヴァの実がヤシの葉の上におちて、ドサッという音がしたのを、このウサギが大地のこわれる音だと早がてんして逃げ出したにちがいない。ひとついって、よくたしかめてこよう。)と、思い、けものたちに向かって、

「心配しないがいい。私はウサギといっしょにその場所へいって、ほんとうに大地がこわれ出したのかどうか、たしかめてくる。わたしが帰ってくるまで、ここに待っていなさい。」と、言いました。

ライオンはウサギを背中にのせて、ものすごい速さでかけだし、ヤシの林へつくと、ウサギをおろして、

「さあ、おまえが見たというのはどこか、案内しなさい。」と、言いました。

「わたくしはこわくてとても案内できません。」と、ウサギは言いました。

「こわがることはない。さあ、いこう。」と、ライオンは言いました。

ウサギはこわくて、とてもヴィルヴァの木の近くへ行けませんので、すこしはなれたところから、「あそこが、おそろしい物音のした場所でございます。」と、ゆびさし、

 わたしのすみかのすぐそばで

 ドスンと音がしたのです

 なにがなんだか知りません

 どうしてドスンと鳴ったやら

と、言いました。

そこでライオンがヴィルヴァの木の根もとへいって、ウサギがその下に寝ていたというヤシの木のまわりを見まわしますと、ヤシの葉の上に、うれたヴィルヴァの実が1つ、落ちていました。それからライオンはあたりの地面が割れていないのを、よくよくたしかめてから、ウサギを背中にのせて、またものすごい速さで、けものたちの待っているところへ引きかえしてきました。

そして見てきたことをくわしく説明してきかせ、こわがることはないのだと、よくよくさとして、けものたちを家へ帰らせました。

もしこのとき、ライオンの姿をしたボーディサッタが助けてやらなかったら、けものたちはみな海へかけこんで、死んでしまったことでしょう。みんなはボーディサッタのおかげで命びろいをしたのでした。

 

本当か疑わしいことは、自分で確かめる

誰が言い始めたことなのか、原因をきちんとたどって探し、言った本人をつれて現場で1つずつ丁寧に確認することを面倒だと思わずにやることが大事。自分の確かめずに疑わしいことをモヤモヤしたままにするのは、自分にとっても人にとっても(影響がある人)良くないこと。それを確認したがらない人が多い中で、きちんと確認して、さとせることが人の上に立つべき人なのだろうと思う。