Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【インドの古い話】バラモン僧とヘビ

話に出てくる、ボーディサッタとは「のちに仏陀になるはずの人」という意味で、お釈迦様の前の世の姿のこと。

 

内容

むかしむかし、ブラフマダッタ王が、ベレナスの都で国をおさめていたころのことです。ボーディサッタがバラモンの家の子どもに生まれてきました。そしてセーナカ少年と名づけられました。年ごろになるとタッカシラーへいって、さまざまの学問をおさめ、やがてベレナスへ帰って、王さまにお目どおりしました。王さまはセーナカに大臣の役をさずけて、たいそうだいじになさいました。そこでセーナカは、国をおさめる上にも、身のおこないについても、なにくれとなく王さまを教えみちびいていました。

セーナカはたいそう説教がじょうずでしたので、王さまをはじめ、国じゅうの人々がセーナカの教えを聞きに集まってきました。2週間に1度のお説教日には、王さまや皇族方をはじめ大ぜいの町の人々が、お説教所に定められた場所に集まって待っていると、やがてセーナカがあらわれ、シカの皮でつくったいすにこしかけて、力づよいことばで、ありがたい教えを説いて聞かせるのでした。

ちょうどそのころ、ひとりの年とったバラモン僧がいました。その妻はあまり心がけのよくない女で、なんとかなまけて、らくをする工夫はないものかと、ある日のこと、わざと病気になったようなふりをして、ねてしまいました。すると坊さんが

「どうしたのかね?」と、たずねましたから、妻は、

「わたくしひとりでこの家の仕事はとてもやりきれません。女中をつれてきてくださいな。」と、言いました。

「だが、わたしは金がないのだ。そうして女中などつれてくることができよう。」

「では、お金をおもらいにあるいて、そのお金でつれてきてください。」

「よしよし、では旅のしたくをしてくれ。」と、坊さんは言いました。妻は、皮のふくろに、おべんとうや長もちのする食料などを入れて、坊さんにわたしました。

坊さんは村から村へと托鉢をしてまわりました。そしてお金七百枚をもらいためました ので、これだけあれば、男と女のめしつかいを、やとうことができると思って、家に帰りかけました。その途中、坊さんは飲み水のある場所の近くで、皮のふくろをひらき、おべんとうをたべました。おべんとうをたべてしまうと、ふくろの口をあけたままで、水を飲みにいきました。その間に木のうろに住んでいる黒ヘビが、たべもののにおいをかぎつけて、ふくろの中にもぐりこみ、たべものをたべてしまって、ふくろの中でとぐろをまいていました。

坊さんはそんなことは知りませんから、帰ってくると、中もあらためずにふくろの口をむすび、それを背中にかついで、また旅をつづけました。すると途中で、道ばたの木のうろの中に住んでいる木の精が坊さんに呼びかけて、

「坊さん、あなたが途中でひと晩とまれば、あなたが死ぬでしょう。きょうじゅうに家に帰れば、おくさんが死ぬでしょう。」と、言ったと思うと、どこかへ姿を消してしまいました。

坊さんはあたりを見まわしましたが、もう木の精のかげも形も見えません。おまえは死ぬぞと、言われたものですから、坊さんは心配でたまらなくなり、泣き悲しみながら、ベレナスの町の門のほうへ近づいていきました。

その日はちょうど、セーナカのお説教日でしたので、大ぜいの人々が手に手にお香や花などをもって、ぞろぞろとお説教を聞きに出かけるところでした。坊さんはその人々に、「どこへいらっしゃるのですか。」と、たずねてみました。すると、「まあ、坊さん、ごぞんじないのですか?きょうは、かしこいセーナカさまがありがたいお説教をなさる日なのですよ。」と、言いました。

坊さんは考えました。

(あの人たちは、かしこい先生のお説教があると、言ったな。いまわたしはおそろしい死神におびやかされている。かしこい先生ならば、この大きなやみをとりのぞいてくれるにちがいない。とにかくいって、お説教をきいてみるとしよう。)

そう思ったので、坊さんは町の人々といっしょになって歩いていきました。

お説教所へついてみますと、セーナカのまわりには、もう王さまはじめ大ぜいの人々がぎっしりすわっていました。坊さんはすこしはなれたところに、皮ぶくろを肩にかけ、きょう死ぬと言われた予言におびえきって立っていました。

セーナカはみごとな話しぶりで、味わいふかいりっぱなお説教をしてきかせました。一同はありがたがって、感心して耳をかたむけました。

賢者の目はすべてのものを見ぬく力をもっています。ちょうどこのとき、セーナカはすみきった目をあげて、聴衆をぐるりと見まわしました。するとバラモン僧の悲しそうな姿が目にとまりました。

(この大ぜいの聴衆はみな教えをきいて、よろこんでいるのに、あの僧ひとりだけは悲しそうな顔をして泣いている。あの男は心の中に何か悲しいことがあるにちがいない。)そう思ったので、セーナカは坊さんにむかって、

「坊さん、わたしはかしこいセーナカだ。おまえの悲しみをとりのぞいてあげるから、なんで悲しんでいるのか、うちあけて言ってごらん。」と言って、つぎのように申しました。

 

 心のなやみあふれてか

 目からなみだが流れてる

 だいじなものでもなくしたか

 願いごとなら言ってごらん

 

坊さんはしんぱいごとのわけを、つぎのように申しました。

 

 もしきょう家に帰るなら

 妻の命がなくなるし

 帰らぬときはわたくしが

 死なねばならぬというおつげ

 それでなやんでおりまする

 教えてください セーナカさま

 

セーナカはそれを聞いて、人が死ぬのにもいろいろ原因がある、しかし、「途中でとまればこの僧が死に、家に帰ればその妻が死ぬ。」という、なぞのようなことばは、どういういみだろうと、いろいろ考えていましたが、ふとバラモン僧が肩にかけている皮ぶくろを見て、思いあたることがありました。それで、こうたずねました。

「坊さん、そのふくろの中にはたべものがはいっているのですか?」

「はい、さようでございます。」

「けさ朝ごはんにそれをたべましたか?」

「はい。」

「どこで、たべたのですか?」

「森の中の木の根もとでたべました。」

「ごはんがすんで水をのみにいくときに、ふくろの口をしめておきましたか?」

「いいえ。」

「帰ってきて、ふくろの口をしめるまえに、中をよく見ましたか?」

「いいえ、見ないでしめました。」

「それでは、たぶん、あなたのふくろの中に、ヘビがかくれているにちがいない。もう心配しないがよい。ふくろをそこへおいて、ふくろの口をあけ、すこしはなれたところに立って、棒きれでそのふくろをたたいてごらん。きっと、黒いヘビが、かまくびをもたげてくるから。」

坊さんはこわごわ、セーナカの言ったとおりにしますと、はたして1ぴきのヘビが出てきましたので、ヘビつかいがそれをつかまえて、森へすててしまいました。坊さんは王さまの前にすすみ出て、うやうやしくごあいさつして、つぎのようなことばで、王さまをほめたたえました。

 

 ジャナカ王さまおしあわせ

 ちえのすぐれたセーナカさまが

 いつもおそばで相談相手

 

それから袋の中の七百枚のお金をとり出し、セーナカとなっていたボーディサッタをほめたたえて、つぎのように申しました。

 

  なんでも見とおすバラモンさま

 あなたのちえはすばらしい

 わたしの持ってるこのお金

 みんなあなたにささげます

 きょうは命をすくわれた

 妻もおかげでたすかった

 

これをきいて、セーナカは申しました。

 

 りっぱなことを教えても

 賢者はお礼をとりはせぬ

 おまえにあげるこのお金

 みやげに持って帰るがよい

 

そう言ってセーナカは、その七百枚のお金は、ちょうど千枚にさせて坊さんに返し、

「あなたはいったい、どういうわけでお金をもらいに歩いているのですか?」と、たずねました。坊さんは、

「じつは、わたしは妻からたのまれたのです。」と言って、そのわけを話してきかせました。セーナカはそれをきいて、

「たぶん、あなたのおくさんはなまけ者で、そのうえ、よくない友だちがついているようです。せっかくあなたが骨おってもらいためたお金も、そのまま持って帰ったら、おくさんが悪い友だちとふたりで、むだに使ってしまうから、村の入り口の木の根もとに埋めておいて、家へお帰りなさい。」と、注意しました。

坊さんはいわれたとおり、じぶんの村の近くまでくると、お金を機の根もとに埋めておいて、その日の夕方、家へ帰りました。

家へつくと、妻はさっそく皮ぶくろを受けとって、あけてみましたが、中はからっぽでした。

「あなたはお金をもらってあるいて、いったい、いくらになったんですか?」

「お金、千枚だ。」

「そのお金はどこにあるんです?」

「それは村の入り口の木の根もとに埋めてあるから、しんぱいしないがいい。あしたの朝とってこよう。」

妻はこっそりそのことを悪い友だちに知らせたので、友だちはその晩のうちに木の根もとからお金をとってきてしまいました。

あくる日、バラモン層がいってみると、埋めたはずのところにお金がありません。そこでセーナカのところへいってそのことを申しました。

「あなたはおくさんにお金をかくしたことを話しましたか?」

「はい、話しました。」

セーナカは、それではそのお金は悪い友だちがとったにちがいないと思いましたので、坊さんに七日間、宴会をひらくだけのお金をわたして、

「では、坊さん、これから七日間、あなたの家でまいにち宴会をひらいて、お客をよびなさい。一日目には、あなたの友だち七人と、おくさんの友だち七人、あわせて十四人、次の日には六人ずつ十二人というふうに、だんだん人数をへらして、七日目には、あなたの友だちひとりと、おくさんの友だちひとりを、招くようにしてごらん。そしてもしおくさんが最後の日によんだひとりが、毎日よばれているようなら、その人の名まえをわたしに知らせなさい。」と、言いました。

坊さんは言われたとおりにして、おくさんが七日間まいにちよんだ人の名まえをセーナカに知らせました。セーナカは、その者をよび出し、しらべますと、はじめのうちは知らないと、言いはっていましたが、なんでも見ぬかずにはおかないセーナカのちえにおそれをなして、ついに坊さんのお金をぬすんだことを白状しました。セーナカは、そのお金をとってこさせて、坊さんに返してやりました。それから坊さんの妻をよんで、二度と人のよい坊さんをこまらせてはならぬと、きびしくいましめ、悪い友だちのほうは、ぬすみをした罰として、町から追いだしてしまったということです。

 

 

 

 

 

盗んだ人も正直に白状する人で良かった。生徒でも平気で噓をつくし、嘘をついてもなんとも思ってなさそうな人もいるし、保護者も特に注意しない人もいるから困る。こういう人たちへの対応方法を考えていかないと今後困りそうだなと思う。

どういうことをすると、こんな風におそれをなして白状してしまうという状態を作れるようになるのか、それが一番難しい。