Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【インドの古い話】幸運をつかんだゾウつかい

話に出てくる、ボーディサッタとは「のちに仏陀になるはずの人」という意味で、お釈迦様の前の世の姿のこと。

 

内容

むかしむかし、ブラフマダッタ王が、ベレナスの都で国をおさめていたころのことです。ボーディサッタがべレナスの国の、あるバラモンの家に生まれてきました。そして年ごろになると、タッカシラーへいってさまざまの学問をおさめ、また国へ帰って、家のものといっしょに暮していました。ところが両親がなくなってから、心のなやみにたえられなくなって、とうとうヒマラヤの山おくへはいって出家となり、そこで仙人の修行をなしとげました。

それから長いことたって、ある日のこと、坊さんは塩や酢など手に入れるために、山をおりて町へ出てきました。そしてべレナスの王さまの遊園に泊まり、あくる日、家から家へと、托鉢してあるいているうちに、とあるゾウつかいの家に立ちよりました。ゾウつかいはその坊さんの態度やものごしが、なんとなく気に入りましたので、たべものを与えたり、じぶんのやしきのなかに泊めたりして、何くれとなく、めんどうをみていました。

ちょうどそのころ、たきぎをひろって暮らしをたてているひとりの男がいました。森からたきぎをとって帰る途中で、日が暮れてしまいましたので、こんばんはこのへんで泊まることにしようと思って、道ばたのお寺の境内にはいり、たきぎのたばをまくらにして、ごろりと横になりました。このお寺には、たくさんのニワトリが放し飼いになっていて、すぐそばの木の上にもオンドリが何羽かとまっていました。やがて夜があけかかったころ、そのなかの高い枝にとまっていた一羽が、低い枝にとまっていたオンドリの背中の上に、ふんをおとしました。

「だれだ?きたないものを、わたしの上におとしたのは?」と、下のオンドリが言いました。

「わたしだよ。」と、上のオンドリが言いました。

「なぜ、そんなことをするんだ?」

「うっかりしていたのだ。」と、上のオンドリは言いました。ところが、上のオンドリは、また、ふんをおとしました。そこで二羽はけんかをはじめ、

「おまえなんか、どこがえらいんだ。」

「おまえこそ、どこがえらいんだ。」

と、たがいにののしりあいました。しまいに、下のオンドリが言いました。

「わたしがどこがえらいか、教えてやろうか。だれでも、わたしを殺して、その肉を炭火でやいてたべた人はな、あくる日には、金貨千枚さずかるんだぞ。」

「へえっ、そんなつまらないことをじまんするない。」と、上のオンドリが言いました。「だれでも、わたしの肉のかたまったところをたべた人はな、王さまになるんだぞ。それから皮に近い肉を食べた人は、男ならば将軍に、女ならばおきさきになるんだ。そして骨についた肉を食べた人はな、あたりまえの人なら宮殿のお金庫の係になれるし、坊さんなら王さまお気に入りの大僧正になれるんだぞ。」

たきぎひろいの男はこれを聞いて、(もし王さまになれるのならば、金貨千枚もらうことはいらないだろう。)と、思いました。そこで、そっと木によじのぼって、上にいたほうのオンドリをつかまえて、しめ殺してふところにねじこんでしまいました。そして、「これでおれも王さまになれるのだ。」と、ひとりごとを言いました。朝になって町の門がひらくのを待って、たきぎひろいの男はいそいで家に帰ると、ニワトリの皮をはぎ、はらわたを出して、妻にわたし、これをおいしく料理してくれと言いました。妻は鳥を料理して、ごはんをたいて、テーブルにならべ、夫にすすめました。

たきぎひろいは、「この肉は、特別ありがたい肉なのだよ。この肉をたべると、おれは王さまになり、おまえは女王様になるのだ。」と、妻に言ってきかせました。そのようなありがたいごちそうならば、まずからだをあらいきよめてから、たべようではないかということになって、ふたりは鳥の肉とごはんをもって、ガンジス川のほとりへ出かけました。そして、ごちそうを川岸においたまま、川にはいて水あびをはじめました。

ちょうどそのとき、にわかに風が吹きおこって、川の水を波立たせたものですから、川岸においてあった鳥の肉とごはんは、波にさらわれてしまいました。鳥とごはんは、流れのままに、川をくだっていきました。そのとき、ちょうど、はるか川しもで、身分のたかいゾウつかいがゾウに水あびをさせていました。

「これは、なんだろう?」と、ゾウつかいは流れてきた包みをひろいあげながら、言いました。

「ごはんと鳥の肉でございます。」と、ゾウつかいの下男は答えました。

「では、それをよく包んでしっかりしばって、封をして、うちのおくさんのところへとどけておいてくれ。そして、わたしが帰るまであけてはいけないと、言っておきなさい。」と、ゾウつかいは下男に命じました。

いっぽうたきぎひろいのほうは、にわかの風のために水や砂をたらふくごちそうになり、おなかがいっぱいになって帰っていきました。

ちょうどそのころ、ゾウつかいの世話になっていた坊さんは、じぶんの恩人の運勢について思いめぐらしていました。

(あの人はいつまでもゾウつかいをさせられているが、いったい、いつになったら、もっと上の役目につくことができるのだろう?)坊さんがこんなことを考えていると、千里眼によって、いまゾウつかいの身の上におこっていることが、ありありと目の前に見えてきました。そこで坊さんは一足さきにゾウつかいの家へいって、主人の帰るのを待っていました。

やがて主人が帰ってきて、坊さんにていねいにあいさつして、そばにこしをおろしました。そして、「さっきの包みを持ってきて、坊さんにたべものと飲みものをさしあげなさい。」と、言いつけました。ごちそうが出されると、坊さんはごはんだけを受けとり、鳥の肉のほうは、ひとりでたべようとはせずに、「この肉は、みなさんに分けてさしあげたいと思います。」と、言いました。主人は、「では、どうぞ分けてください。」と、申しました。そこで、坊さんは鳥をいくつかに切り分けて、肉のかたまったところは主人に、皮にちかい肉はおくさんにすすめ、じぶんは骨についた肉をたべました。みんながごはんをたべてしまうと、坊さんはゾウつかいに、

「きょうから三日目の日に、あなたは王さまになるでしょう。しっかりしていてください。」と、言いおいて、山へ帰っていきました。

それから三日目の日に、となりの国の王さまが攻めてきて、べレナスの都をかこみました。べレナスの王さまはゾウつかいをよんで、

「おまえはわたしの着物をまとい、わたしのゾウにのって戦ってくれ。」と、命じました。そして自分は身なりをかえて、兵隊にまじって戦っていましたが、とんできた強い矢にあたって、その場で息が絶えてしまいました。

ゾウつかいは、王さまがなくなったと聞くと、倉からたくさんの金貨をはこび出させ、たいこを打ちならして、

「金のほしいものは、すすめっ!敵を打て!」と、大声でふれさせました。勇士たちはたちまち、敵の王さまを切り殺してしまいました。

王さまのおとむらいがすむと、けらいたちはだれを王の位につけたらよいか、相談をしました。

「なくなられた王さまが、まだ生きておられたうちに、ごじぶんの着物をあのゾウつかいにお着せになったことでもあるし、あのゾウつかいが味方の軍勢をひきいて、国を守ったのだから、あの人を王の位につけることにしようではないか。ということに、相談がまとまりました。そこで即位の式をあげられて、ゾウつかいは王さまになり、その妻は女王さまになり、ゾウつかいの家にいた坊さんは、王さまのお気に入りの大僧正になりました。」

 

 

 

 

流れてきた食べ物を何の疑いもなく食べられるのがすごい。ごちそうを作って川でみずあびをしていた夫婦はなくなってしまったことに何も思わなかったのだろうか?またあの鳥を捕まえに行くのかな。

そもそもあの鳥は本当のことを言いあって自慢していたんだ。見栄をはって嘘を混ぜていたわけではなかったのか。