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行動は言葉よりも雄弁

【インドの古い話】魔法の文句が王さまの命を助けた話

話に出てくる、ボーディサッタとは「のちに仏陀になるはずの人」という意味で、お釈迦様の前の世の姿のこと。

内容

むかしむかし、ブラフマダッタ王が、ベレナスの都で国をおさめていたころのことです。ボーディサッタが、タッカシラーの町で世にも名高い学者になって、大ぜいの王子や坊さんのむすこなどを教えみちびいていたことがありました。

ブラフマダッタ王の王子も、16歳になると、タッカシラーにいって、この先生のもとに弟子入りをしました。そして三種のヴェーダ聖典やさまざまの学問をならいましたが、やがてりっぱに勉強をおえたので、先生に別れをつげて、国へ帰ることになりました。

ところでこの先生は、未来のことを予言するふしぎな力を持っていました。先生はつくづくと若い王子の人相をながめ、

(この人はやがてじぶんのむすこのために、危うい目にあう運命にある。わたしが魔法の力でこの人を助けてあげることにしよう。)と、思いました。そこで先生は四組の魔法の文句をつくり、それを王子にさずけて、こう言いました。

「あなたが王の位についてのち、あなたの王子が16歳になったら、食事をするときに第一の文句をとなえなさい。やがて盛大な謁見式があるだろうから、そのときに第二の文句をとなえなさい。それからきゅでんの屋上にのぼるときに、一ばん上の階段のところで、第三の文句をとなえなさい。さいごに、じぶんの寝室へはいるときに、入り口のしきいの上で、第四の文句をとなえなさい。」

王子は、「きっと先生のお教えどおりにします。」と、答えて、別れのあいさつをのべ、国へ帰っていきました。そして何年かの間、父ブラフマダッタ王を助けて、まつりごとをおこなっていましたが、やがて父王がなくなられたので、そのあとをついで王さまの位にのぼりました。この王さまの王子が16歳になると、王子は父王が宮殿のお庭に散歩に出かける姿を見て、その威光と勢力がうらやましくなり、きゅうに王さまを殺して、国をうばおう、という野心をおこしました。そして、じぶんのけらいたちに相談しました。するとけらいたちも、「そうですとも。年をとってから、えらくなったところで、なんにもありません。なんとか手だてをめぐらして、王さまを殺し、国をうばいとる工夫をなさいませ。」と、そそのかしましたので、王子もいよいよその気になり、

「ではたべものに毒を入れて、王さまを殺すことにしよう。」と、言いました。

そこで王子はこっそり毒をかくし持ったまま、知らんかおをして、父王といっしょに食事の席につきました。やがて、いよいよ食事をはじめるときになると、王さまは第一の魔法の文句をとなえました。

 かしこいネズミはかんがいい

 一目で見わける 米と殻

 殻は皮にはふれもせず

 さっさとたべます米ばかり

(これは見つかったかな。)と、思ったので、王子はこわくなって、たべものに毒を入れることができなくなり、席をたって、王さまへのあいさつもそこそこに、へやを出ていってしまいました。そしてけらいたちにそのできごとを話して、

「きょうは見破られてしまった。さて、こんどはどうして王さまを殺したものだろう?」と、言いました。それからというもの、王子と一味の者どもは、宮殿のお庭にかくれて秘密の相談をつづけていました。

「いま1つ、よい方法がございます。近いうちに特別の謁見式がおこなわれますから、そのときに、あなたさまは刀をさげていって、けらいたちの中にまじって、王さまのゆだんしているすきをねらって、切っておしまいになったらよろしいでしょう。」と、だれかがささやいたので、それがよかろうということになりました。

そこで特別謁見式の日になると、王子は刀を身につけて、あちこちと歩きまわりながら、王さまをうつすきをねらっていました。ちょうどそのとき、王さまは第二の魔法の文句をとなえました。

 森の中でのわるだくみ

 人にかくれた相談も

 何をどうして何するか

 わしにはちゃんとわかってる

 

王子は、(さては、わたしのむほんのくわだては、かんづかれたな。)と、思ったので、逃げていって、けらいたちにそのことを話しました。それから1週間ほどすると、けらいたちは言いました。

「王子さま、お父上はあなたのごむほんにお気づきではないごようすです。たぶん、あなたさまはただの気のせいで、そうお思いになったのでしょう。なんとかして王さまを殺す工夫をなさいませ。」

そこである日、王子は刀をさげて、階段の上の小べやのなかにかくれていました。やがて王さまが階段をのぼってこられ、1ばん上の段までくると、第三の文句をとなえました。

 父親ザルがだいそれた

 幼い子ザルをとりおさえ

 出ばなをくじいた物語

 昔話にきいている

 

王子は、(王さまはわたしをつかまえようとしているのだ。)と思ったので、おそろしくなり、逃げていって、けらいたちに父王からおどかされたいきさつを話してきかせました。それから半月ほどすると、またけらいたちが言いました。

「王子さま、もし王さまがこのことをごぞんじならば、こんなに長くほうっておくはずがありません。きっとあなたさまの気のせいでしょう。なんとか王さまを殺す工夫をなさいませ。」

そこである日、王子は刀をもって、宮殿の二階の王さまの寝室にしのびこみ、王さまがへやへはいってきたら、切りつけてやろうと思って、寝台の下にかくれていました。

晩ごはんがすむと、王さまは横になりたくなったので、おつきの者に、「もうさがってもよろしい。」と、おおせになって、ひとりで寝室へ帰っていらっしゃいました。そのとき、へやにはいりがけに、しきいの上で第四の文句をとなえました。

 カラシ畑をうろつきまわる

 めっかちヤギにそっくりだ

 下にこっそりかくれていても

 わしはおまえを見つけたぞ

 

王子は、(とうとう王さまに見つかった。じぶんは殺されるにちがいない。)と、思ったので、おそろしさのあまり、寝台の下からとび出してきて、刀を投げだし、王さまの足もとにひれふして、「どうか、おなさけを。」と、言いました。

「おまえは、じぶんの悪だくみが知れずにすむと思っていたのか。」と、王さまはおおせになって、王子をきびしくしかりつけた上、くさりでしばって、牢屋へ入れ、見張り番をつけておきました。

王さまはいまさらのように、ボーディサッタの徳のふしぎな力に、感心したということです。