Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【インドの古い話】ワニとサル

話に出てくる、ボーディサッタとは「のちに仏陀になるはずの人」という意味で、お釈迦様の前の世の姿のこと。

内容

むかしむかし、ブラフマダッタ王が、ベレナスの都で国をおさめていたころのことです。ボーディサッタがサルになって、ヒマラヤ山のふもとに生まれてきました。そして、おとなにんるにつれて、ゾウのように強く力もあり、からだも大きな大ザルになって、ガンジス川の流れのくねっているあたりの森のなかで、たのしく暮らしていました。

ちょうどそのころ、ガンジス川の中に1ぴきのワニが住んでいました。あるときそのワニの妻が、大きなからだをしたサルのボーディサッタを見て、きゅうにその心臓がたべたくてたまらなくなりました。ワニの妻は、夫のワニに言いました。

「ねえ、あなた、あたしはあの大きな王さまザルの心臓がたべたくてなりませんわ。」

「そんなことを言ったって、おまえ、わたしたちは水の中に住んでいるのだし、サルは陸の上に住んでいるのだ。そうして、わたしらにサルをつかまえることができるかね。」

「でも、なんとかして、ぜひつかまえてくさいな。あたし、あのサルがたべられないと、死んでしまいそうです。」

「よしよし。」

と、ワニは妻をなぐさめて言いました。「心配しないがいい。わたしにはよい考えがある。きっと、おまえにサルの心臓をたべさせてやるよ。」

ある日、王さまザルのボーディサッタが、ガンジス川に、水をのみに来て、川の岸にすわっていますと、ワニがそばへ寄ってきて、話しかけました。

「サルさん、どうしてあなたはいつもおんなじところばかりにいらっしゃるのです。ガンジス川のむこう岸には、マンゴーの木やパンの木などがたくさんあって、あまくておいしいくだものがいくらでもありますよ。むこう岸へわたって、いろいろなくだものをたべてごらんになったらどうですか。」

「しかし、ワニさん、ガンジス川の流れは深くて広いのです。どうしてむこう岸へ渡ることができましょう。」と、サルは言いました。

「あなたが渡るおつもりなら、わたしが背中にのせて渡してあげますよ。」と、ワニが言いました。

サルはワニのことばを信じて、渡してくださいとたのみました。

「さあ、ではここへ来て、わたしの背中へおのりなさい。」と、言われるままに、サルはワニの背中にのりました。ところが、ワニはすこし泳ぎだしたと思うと、いきなりサルを水にしずめようとしました。

「ワニさん、わたしを水にしずめるなんて!何をしようというんです?」と、サルはさけびました。

ワニは言いました。

「おまえは、わたしが親切ずくで、おまえをむこう岸へ渡してやるとでも思ったのかい。とんでもないよ。じつは、わたしの妻がおまえの心臓をたべたいと言うんで、それをたべさせてやろうというわけさ!」

「ワニさん、そのことを話してくださって、よかったですよ。だって、まあ、考えてごらんなんさい。もしわたしたちが木の上をとびまわるときに、心臓をむねの中に入れていたら、心臓はめちゃめちゃにこわれてしまうじゃありませんか。」と、サルは言いました。

「へえ!では心臓はどこにおいてあるのかい?」と、ワニはききました。

サルのボーディサッタは、そこからあまり遠くないところに、うれた実をすずなりにつけて立っているイチジクの木を指さして、

「ほらごらんなさい、わたしたちの心臓はね、あそこに見えるあのイチジクの木にかけてあるんです。」

「じゃ、その心臓をほんとにくれたら、おまえの命を助けてやろう。」と、ワニは言いました。

「それでは、わたしをあのイチジクの木のところまで連れていってください。そうすれば木にかけてあるわたしの心臓をあげますから。」

ワニはサルをイチジクの木のそばへつれていきました。サルは、ワニの背中からとびおりると、すばやくイチジクの木によじのぼり、枝の上にすわって、

「ワニのおばかさん、おまえは生きものがじぶんの心臓を、木のてっぺんに引っかけておくとでも思ったのかい?おまえはばかだから、まんまとだしぬかれたんだよ。むこう岸のくだものは、おまえが勝手におたべ。わたしはイチジクだけでたくさんだ。おまえは大きなずうたいをしているくせに、脳みそはすいぶんちっぽけだとみえるね。」と、わらいました。

そして、こういう文句をとなえました。

川のむこうにあるという

マンゴーも ジャンブも パンの実も

まっぴらごめんだ わたしには

イチジクだけでけっこうさ

おまえのなりは大きいが

ちえは総身にまわらない

ワニさん おまえはだまされた

さっさとおかえり さようなら

 

ワニは、かけごとで金貨を千枚もとられた人のように悲しそうな顔をして、すごすごとじぶんのすみかへ帰っていきました。