話に出てくる、ボーディサッタとは「のちに仏陀になるはずの人」という意味で、お釈迦様の前の世の姿のこと。
内容
むかしむかし、ブラフマダッタ王が、ベレナスの都で国をおさめていたころのことです。ボーディサッタが大臣になって、国をおさめる上にも、身のおこないについても、なにくれとなく王さまを教えみちびいていました。
ある日のこと、王さまが大きな窓をあけはなしにして、御殿のお庭をながめていらっしゃいました。すると、ちょうどそのとき、若く美しいくだもの屋のむすめが、ナツメの実を入れたかごを頭の上にのせて、
「ナツメやナツメ。ナツメはいらんかね。」と、言いながら、御殿のお庭のあたりを売りあるいていました。
王さまはその声を聞いただけで、すっかりそのむすめに心をひかれてしまいました。しらべさせてみると、まだおよめ入りまえだということでしたので、王さまはさっそくそのむすめを召し出して、おきさきにして、たいそうだいじになさいました。おきさきはたいそう王さまのお気に入って、だいじにされて暮らしていました。
ある日のこと、王さまは金のお皿にもったナツメの実をたべていらっしゃいました。おきさきのスジャータ―は、王さまがナツメをたべていらっしゃるのを見ると、こう申しました。
金のお皿にもりあげた
赤いきれいなその卵
おれはいったいなんですの
王さま おしえてくださいな
王さまはそれを聞くと、おおこりになって、
「おまえはもともと、くだもの屋のむすめで、ナツメを売っていたのではないか。それが、じぶんのうちの商売のナツメまで忘れてしまったのか?」
そしてまた、つぎのようにおっしゃいました。
きさきよ おまえがそのむかし
ぼうずあたまにボロをきて
腰に手をあて摘んでいた
ナツメの実だよ ほらごらん
きさきはここがつらいのだ
楽しみひとつありはせぬ
さっさと帰っていくがよい
ナツメを摘んで暮らすがよい
大臣なっていたボーディサッタは、おふたりを仲よくさせることできるのは、じぶんのほかにはないから、王さまをなだめて、おきさきを追いださないように、たのもうと思ったので、王さまにむかって、つぎのように申しました。
女に位がつけばみな
こうなるものです 大王さま
スジャータ―さまをとがめずに
やさしく許しておあげなさい
王さまなるほどと思って、おきさきのあやまちをゆるし、追い出すことはやめて、それからは仲よく暮らしたということです。