Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【タルムード】思考の剣

内容

 

賢者ラバン・ガマリエル・ハザケンは、祖父ののラビ・ヒレルのあとを継いで、1世紀半ばののエルサレムで、ユダヤ教の長老をつとめた。ラバンの称号で呼ばれた最初の人で、ユダヤ人ばかりか、キリスト教徒のあいだでもたいへん尊敬されていた。ラバン・ガマリエルは、ローマの聖職者や賢者たちだけでなく、あらゆる民ののあらゆる質問に的確に答え、議論もすすんでした。そして、どんなときでも、そのことばは剣のように鋭かった。

「ラバン・ガマリエルには気をつけないといけない。ラバンの剣は、どんな剣より鋭い」と、人々は噂した。

「どんな剣もおよばない鋭い剣とは、どんな剣ですか?」とたずねられると、人々はこう答えるのだった。

「剣とはラバン・ガマリエルの頭脳のこと、つまり、ラバンの考えは剣のごとく鋭く、ものごとの核心をついている、ということです」

ある日、ローマの賢者のひとりが、ラバン・ガマリエルを討論会に招いた。賢者や聖職者、その地の名士がおおぜい集まって見物するなかで、2人の討論がはじまった。

「トーラー(旧約聖書の最初の五書で、ユダヤ教の教えの中心)には、ユダヤの民が信じる神は嫉妬し復讐する神であり、その復讐は燃える火のごとくはげしい、とありますね?」賢者がラバンにいった。

「そう伝えられています」ラバンは答えた。

「もしそうなら、あなた方の神は、なぜ、怒りを偶像崇拝者にぶちまけて、その罪を罰するのですか?偶像そのものに怒りをぶちまけて、偶像を焼き尽くせばいいのではないですか?」

聴衆のあいだに、同意するささやきが広がった。人々はラバンが言い負かされる様子を見ようとざわめいた。

ローマの賢者はことばをつづけた。「もし、あなた方の神が怒りの炎で、すべての偶像を燃やして地上から消しされば、偶像崇拝はなくなります。消滅してしまった偶像にひざまずくことなどありえないから、あなた方の神の勝利は完璧になるではありませんか?」

聴衆のあいだから挑発の笑いがもれた。ラバンはその笑いには気を止めず、口をひらいた。

「ある王さまの話なのですが、その王さまには、目に入れても痛くないほどかわいがっている王子がいました。王さまはその王子に不足がないよう、王子が望むことはなんでもかなえて、それは大事に育てていました。ある日王子は、子犬がほしい、と王さまにねだりました。王さまはさっそく愛らしい子犬を王子に買いあたえました。王子は食べものを子犬と分けあい、自分のコップから水を飲ませ、自分のベッドに寝かせ、子犬をかわいがるあまりに、その子犬に父王さまの名前をつけました。父王さまの名前はティベリウス。というわけで、子犬の名前もティベリウスになりました。王子は大満足で、約束ごとをするときは『子犬ティベリウスの名にかけて』などというほどでした。

人々は、『子犬ティベリウスの名にかけて』なんて、父王ティベリウスの名をはずかしめることになりはしないか、『その名にかけて誓う』などと、王子が子犬を崇めるみたいにいうのをもてはやしていいんだろうか、と迷いました。

そうした経緯を知った王さまは、当然ながら、立腹しました。ところで、賢者の方々、王さまはいったいだれに腹を立てたのでしょう?自分と同じ名の子犬にでしょうか、それとも、自分の名を子犬につけた王子んでしょうか?はたして、罰を受けたのは子犬でしょうか、それとも、無礼な王子でしょうか?」

質問をしたローマの賢者は黙りこみ、赤くなった顔を聴衆に見られるのが恥ずかしくてうつむいた。すると、別の賢者が口をひらいた。

「ラバン・ガマリエル、まだ納得はしておりませんぞ。われらの神を犬になぞらえて侮辱したことは断じてゆるせません。それにまだ、あなたが犬にたとえて虚しいものだと断じた偶像を、あなた方の神はなぜ壊しさってしまわないのか、十分な説明を聞いておりません。偶像がそれほどまでに価値がないなら、なぜ残しておくのですか?そのせいで罪を犯すかもしれず、人間にとって罠になりかねないものを、なぜ残しておくのです?あなた方の神は、人間が過ちをおかすのを望んでいるのですか?罪や過ちをもたらす偶像をつぶそうとしないのはなぜです?」

「おわかりではないようですね」ラバン・ガマリエルはいった。「説明いたしましょう。あなたのいうとおりにすると、太陽や月を、星を、木々や石を、海の魚を、陸の動物を、すなわち森羅万象のすべてを殺して滅ぼさなければなりません。なぜなら、偶像崇拝者たちは、そうした万物をそれぞれに崇めたてまつっているからです。ある人は太陽に祈り、ある人は月に祈りをささげ、ある人は石像にひざまずき、ある人は金の子牛にひざまずきます。ある人は空の星を崇めます。そうした偶像をすべて滅ぼしたら、この世にはなにも残らなくなる。われらが神は、自身が創造した宇宙を滅ぼそうとは望んでおりません。ただ愚かな偶像崇拝者たちに裁きをくだすだけです」

あたりは、水を打ったように静まりかえった。ラバン・ガマリエルは壇をおり、聴衆は散っていった。

夜のとばりがおり、空にくっきりと浮かんだ月が、家路につくラバン・ガマリエルの道づれになった。ラバンは、ついてきた弟子たちと家の戸口で別れた。そして、空をあおいで、高きにある月、あちこちに散らばる星々をながめて祝福した。

「空は、神の尊厳と、天空を導く御業を語る」

 

 

難しい内容の話だから、3回くらい読み直さないと何を言いたいのかがわからない。