Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【世界の深い知恵の話】永遠の木

内容

 

 むかしむかし、ある森の中に小さな木が生えていました。大きくなるにつれ、たくましくなるにつれ、木は頭上にひろがっている大空の広さ、高さに気づくようになりました。まるですばらしい旅に出たようでした。木は、大空をさわやかに横切る白い雲に目を留めました。空を背に旋回する小鳥たちを見守りました。

 大空、雲、小鳥たちーーーすべては永遠の国について語っているようでした。大きくなればなるほど、木は永遠に属する、そうしたものに気づくようになりました。自分も永遠に生きたいと願うようになりました。

 ある日のこと、森林監督官がこの木のそばを通りかかりました。監督官はやさしい心のひとだったので、木の悲しそうな様子に気づいて胸を痛めました。「どうしたんだね?何か気にかかることでもあるのかね?」と監督官はたずねました。

 木はためらいました。でも自分の胸の奥底の願いについて、うったえずにはいられませんでした。「わたし、永遠に生きたいんです。」

 「きみの願いはかなえられるかもしれないよ」と監督官は言いました。

 しばらくのときがたち、監督官はある日また、その木のそばを通りかかりました。このときには木は大きな立派な木になっていました。

 「どうだね?今でも永遠に生きたいと思っているのかね?」

 「ええ、それはもう!」と木は答えました。

 「きみが永遠に生きるように、このわたしが手を貸してあげることができるかもしれない」と森林監督官は言いました。「しかしそれにはまず、きみを切り倒すことをゆるしてもらわなければならないんだが。」

 木はびっくりしました。「わたしは永遠に生きたいんです。なのに、あなたはわたしを殺そうと言うんですか?」

 「頭がおかしいんじゃないかと思うだろうね」と監督官は答えました。「だが、わたしを信頼してくれないか?約束するよ。きみの願いをかなえてあげるって。」

 さんざん悩んだすえに、木は監督官を信頼することにしました。監督官はよく切れる斧を持ってきて、木を切り倒しました。切り口から樹液が流れだし、森の土に吸いこまれました。木は切り分けられ、鉋で削られ、ととのえられて息がつまるほど、厚くニスを塗られました。木は苦しくて、つらくて、うめき声を必死でおさえました。でもいまさら「やめてください」と言うわけにはいきませんでした。木は、ついにヴァイオリンつくりの手に身を任せました。痛くて、苦しくて、永遠に生きるなどという夢は苦痛の靄のうちに消えてなくなってしまいました。

 何年ものあいだ、ヴァイオリンになった木はただぼんやり横たわっていました。ときたま、森でたくましい大木として成長しつづけていたころのことを思い出して、森林監督官の斧に身を任せるなんて、ばかなことをしたものだと悔みました。永遠に生きるためならと苦痛を我慢するなんて、わたしって、ほんとに考えなしだわ!

 けれどもついにその日がきたのです。すばらしい瞬間がきたのです。ヴァイオリンはケースから取り出され、やさしい手によって大事そうに持ち上げられました。ヴァイオリンは息をひそめていました。まさか、まさか!自分の胸の上を走る弓の感触を意識して、ヴァイオリンはおののきました。清らかな音が響き、ヴァイオリンはかつて木だったときに、自分の端のあいだを風がさやさやと吹きすぎたことを思い出しました。永遠への旅の途上にある雲が空を走っていたことを、小鳥が青い空に永遠を象徴するような環を描いて旋回していたことを、ヴァイオリンは思い出していたのです。

 たとえようもなく澄んだ音。純粋な調べ。永遠の楽の音。

 「わたしは世界の調べになったのね!」とかつての小さな木はあえぐようにつぶやきました。「あのひとの言ったとおりだわ!」

 小さな木でつくられたヴァイオリンのかなでる調べは、聞くひとの心から心へとつたわって、数世紀を送り迎えしました。

 その妙なる調べに耳を傾けた人びとがそれぞれの旅を終えて永遠の国に帰っていったとき、ヴァイオリンのかなでる調べもまた永遠の門から入って、まことの永遠の木となったのでした。

 

 

 

 

 

ギターを持っているから、なおさら大事にしようと思うようになった。大切にすればずっと使い続けることができるから、ときどきはちゃんと弾いて、手入れもしようと思う。大事にすればするほど良い音になるのかな~。