内容
むかし、イスラエルのアッコの町に、ナダブ(施しという意味)という名の、情けぶかい人が住んでいた。ナダブは、貧しい人たちを友人のように自宅に招いては、食べものを分けあって暮らしていた。
だが、長い年月そうしているうちに、ナダブは財産をすっかりつかいはたしてしまった。家には1シェケル(イスラエルのお金の単位)のほか、なにもなくなってしまった。
収穫祭が近づくと、ナダブの妻は、最後の1シェケルわたしていった。
「市場にいって、この1シェケルで、家族のためにパンを買ってきてください」
ナダブは家を出た。市場につくと、町の役人たちが、貧しい孤児のために寄付をつのっていた。ナダブは役人に近づいていった。
「この1シェケルを、どうぞおつかいください。わが子たちには家族がおりますが、この子にはだれもいないのですから」
町の役人は1シェケルを受けとり、ナダブを祝福していった。
「神が、あなたの慈善にむくいてくださるにちがいありません」
手ぶらで家に帰るのがためらわれ、ナダブは町を歩きまわった。うろうろしているうち、金持ちの家にの果樹園に出た。リンゴの木のそばでいそがしく働いている庭師を見かけて、ナダブは声をかけた。
「できたら、お手伝いさせてもらえませんか。1シェケルか2シェケルかせいで、子どもらにパンを買ってやりたいのです」
「じゃあ、リンゴをもいでもらおうか」庭師がいった。
見あげると、大きくてみずみずしい、つややかな赤いリンゴがたくさんなっている。ナダブはたっぷり1時間働いた。
仕事が終わると、庭師はナダブにいった。
「わしは賃金を払うことはできんが、賃金の代わりに、このリンゴを持てるだけ持っていくがいい。神のご加護がありますように・・・」
ナダブは、リンゴをずだ袋いっぱいにつめこみ、港のほうにおりていった。そして自分がいったいなにをしようとしているのかわからないまま、海のむこうの国にむけて帆をあげようとしている船にふらふらと乗りこんだ。
船は3日間、海を進んで、カフトールという島に着いた。
そのころ、カフトール島のカフトール国の王さまは、重い病気で苦しんでいた。医者たちは、その病気にきく薬も治療法もわからず、ただ手をこまねいて、「王さまのさいごも近かろう」と、ささやきあうばかりだった。
ある夜、王さまは夢を見た、夢のなかに神の使いがあらわれていった。
「聖なる地に育ったリンゴを口にすれば、病気は治るだろう」
王さまは目をさますと、さっそく、家来に命じた。
「急いで海辺にいって、聖なる地、イスラエルから来た者がいるか調べよ。いたら、その地に育ったリンゴを持っているか、見てくるのだ」
家来たちは、王さまの命令どおりにした。海辺に停泊している船にあがると、甲板に、ずだ袋をわきにおいたナダブがいた。
「どちらから、おこしですか。それに、その袋にはなにが入っているのでしょう?」
「聖なる地よりまいりました。このずだ袋には、熟して甘いリンゴが入っています」
家来たちは、いっしょに王さまのもとにおこしください、とナダブに頼んだ。
王さまはナダブを見ると、たずねた。
「その袋にはリンゴが入っていると聞いたが、そのとおりか」
「はい、聖なる地のリンゴでございます。ふるさとの町アッコで、労働の報酬として手に入れたものでございます」ナダブはそういって、リンゴを1個、王さまにさしだした。
王さまはリンゴをひと口かじった。いままで、これほどおいしいものは口にしたことがないと思うほど、清々しい味わいがする。王さまは、ひと口、もうひと口とリンゴをかじり、とうとう、まるまる1個食べてしまった。最後のひとかけらが胃袋にとどいたとたん、なんということだろう、病気は、もとからなかったみたいに、すっかり消えていた。
「ほう、これこそリンゴの力だ」王さまは感心し、家来たちに命じた。「袋のなかのリンゴをぜんぶ出して、代わりに、金貨でいっぱいにせよ」
家来たちは命令にしたがった。王さまはナダブにたずねた。
「ほかに、ほしいものがあったらいってみよ」
「どうか、ご家来衆に、わたしを家族のもとにもどしてくれるよう、お命じください。家族に会いたくてたまりません」
王さまは家来たちに、ナダブを故郷に送りとどけるよう命じた。
家来たちは、ずだ袋をもうひとつ持ってくると、それにも金貨をいっぱいつめて、ナダブを帆船にのせ、家まで丁重に送りとどけた。
ナダブは王さまにもらった金貨で土地を買い、リンゴの木を何本も植えた。
神の祝福を受けて、リンゴの木は毎年たわわに実をつけ、大豊作だった。おかげで、ナダブはその後もずっと、貧しい人たちに食事を分けあたえたり、恵まれない人たちのための寄付をしたりして、施しや慈善をつづけることができたのだった。
リンゴの木には病気を治す力があるのか
タルムードの話にはリンゴで病気が治るとかザクロで治るとかすごいパワーのある果物がたくさん出てくる。だからか、もともとりんごが好きだったし、さらにリンゴが好きになる。リンゴの効能をさらに調べたくなる。
施しをする人には、その後良いことが待っていることがわかる良い話。