あるところに、オンドリとメンドリがいました。
ある日、オンドリとメンドリは、くるみを探して林へでかけていきました。
オンドリは、「えさを見つけたら、半分にわけよう」と、いいました。
「そうしましょう」と、メンドリは答えました。
メンドリは、地面を何度もつついて、くるみの実をほりだしました。メンドリは、約束したとおり、くるみの実を半分、オンドリにわけてやりました。
こんどはオンドリが、くるみを見つけました。ところが、オンドリはけちんぼうだったので、わけるのがおしくなり、メンドリにないしょで、くるみをひと飲みにしようとしました。すると、くるみがのどに、つかえてしまったのです。
オンドリは、くるしそうにいいました。
「メンドリさん、いそいで水をもらってきて!さもないと死んじゃうよ」
そのとたん、オンドリは地面にひっくりかえって、足は上をむいてしまいました。
「まあ、たいへん!」とメンドリは、水をもらいに泉へ走っていきました。
「ねえ、泉さん、泉さん、
お願い、水をくださいな。
わたしのオンドリさんに飲ませるの。
オンドリさんはむこうの林でひっくりかえって、
足は上をむいちゃってるの…
ああ、こわい!
死んじゃったらどうしよう、わたし、こわいわ!」
すると、泉はいいました。
「したて屋にスカーフをもらってきたら、水をあげよう」
メンドリは、したて屋へ走りました。
「ねえ、したて屋さん、したて屋さん、
お願い、スカーフをくださいな。泉さんに持っていけば水をくれます。
その水を、わたしのオンドリさんに飲ませるの。
オンドリさんはむこうの林でひっくりかえって、
足は上をむいちゃってるの…
ああ、こわい!
死んじゃったらどうしよう、わたし、こわいわ!」
すると、したて屋はいいました。
「くつ屋にうわばきをもらってきたら、スカーフをあげよう」
メンドリは、くつ屋へ走りました。
「ねえ、くつ屋さん、くつ屋さん、
お願い、うわばきをくださいな。したて屋さんに持っていけば、スカーフをくれます。
そのスカーフを、泉さんに持っていけば、水をくれます。
その水を、わたしのオンドリさんに飲ませるの。
オンドリさんはむこうの林でひっくりかえって、
足は上をむいちゃってるの…
ああ、こわい!
死んじゃったらどうしよう、わたし、こわいわ!」
すると、くつ屋はいいました。
「ブタにかたい毛をもらってきたら、うわばきをあげよう」
メンドリはブタのところへ走りました。
「ねえ、ブタさん、ブタさん、
お願い、かたい毛をくださいな。くつ屋さんに持っていけば、うわばきをくれます。
そのうわばきを、したて屋さんに持っていけば、スカーフをくれ、
そのスカーフを、泉さんに持っていけば、水をくれます。
その水を、わたしのオンドリさんに飲ませるの。
オンドリさんはむこうの林でひっくりかえって、
足は上をむいちゃってるの…
ああ、こわい!
死んじゃったらどうしよう、わたし、こわいわ!」
すると、ブタはいいました。
「ビールを作る親方に、おいしいビールの粕をもらってきたら、かたい毛をあげよう」
メンドリは、ビールを作る親方のところへ走りました。
「ねえ、ビールを作る親方、ビールを作る親方、
お願い、おいしいビールの粕をくださいな。ブタさんに持っていけば、かたい毛をくれます。
そのかたい毛を、くつ屋さんに持っていけば、うわばきをくれ、
そのうわばきを、したて屋さんに持っていけば、スカーフをくれ、
そのスカーフを、泉さんに持っていけば、水をくれます。
その水を、わたしのオンドリさんに飲ませるの。
オンドリさんはむこうの林でひっくりかえって、
足は上をむいちゃってるの…
ああ、こわい!
死んじゃったらどうしよう、わたし、こわいわ!」
すると、親方はいいました。
「雌牛に生クリームをもらってきたら、おいしいビールの粕をあげよう」
メンドリは、雌牛のところへ走りました。
「ねえ、雌牛さん、雌牛さん、
お願い、生クリームをくださいな。ビールを作る親方に持っていけば、おいしいビールの粕をくれます。
そのおいしいビールの粕を、ブタさんに持っていけば、かたい毛をくれ、
そのかたい毛を、くつ屋さんに持っていけば、うわばきをくれ、
そのうわばきを、したて屋さんに持っていけば、スカーフをくれ、
そのスカーフを、泉さんに持っていけば、水をくれます。
その水を、わたしのオンドリさんに飲ませるの。
オンドリさんはむこうの林でひっくりかえって、
足は上をむいちゃってるの…
ああ、こわい!
死んじゃったらどうしよう、わたし、こわいわ!」
すると、雌牛はいいました。
「原っぱに行って草をもってきたら、生クリームをあげよう」
メンドリは原っぱへ走りました。
「ねえ、原っぱさん、原っぱさん、
お願い、草をくださいな。雌牛さんに持っていけば、生クリームをくれます。
その生クリームを、ビールを作る親方に持っていけば、おいしいビールの粕をくれ、
そのおいしいビールの粕を、ブタさんに持っていけば、かたい毛をくれ、
そのかたい毛を、くつ屋さんに持っていけば、うわばきをくれ、
そのうわばきを、したて屋さんに持っていけば、スカーフをくれ、
そのスカーフを、泉さんに持っていけば、水をくれます。
その水を、わたしのオンドリさんに飲ませるの。
オンドリさんはむこうの林でひっくりかえって、
足は上をむいちゃってるの…
ああ、こわい!
死んじゃったらどうしよう、わたし、こわいわ!」
すると、原っぱはいいました。
「それなら空にお願いして、雨つぶを落としてくれたら、草をあげよう」
メンドリは、空に向かってお願いしました。
「ねえ、空さん、空さん、
お願い、雨つぶを落としてくださいな。原っぱに雨つぶが落ちれば、草をくれます。
その草を、雌牛さんに持っていけば、生クリームをくれ、
その生クリームを、ビールを作る親方に持っていけば、おいしいビールの粕をくれ、
そのおいしいビールの粕を、ブタさんに持っていけば、かたい毛をくれ、
そのかたい毛を、くつ屋さんに持っていけば、うわばきをくれ、
そのうわばきを、したて屋さんに持っていけば、スカーフをくれ、
そのスカーフを、泉さんに持っていけば、水をくれます。
その水を、わたしのオンドリさんに飲ませるの。
オンドリさんはむこうの林でひっくりかえって、
足は上をむいちゃってるの…
ああ、こわい!
死んじゃったらどうしよう、わたし、こわいわ!」
空は、林でひっくりかえっているオンドリをあわれに思って、原っぱに雨つぶを落としました。
すると、原っぱは草を、雌牛は生クリームを、ビールを作る親方はおいしいビールの粕を、ブタはかたい毛を、くつ屋はうわばきを、したて屋はスカーフを、泉は水をくれました。
メンドリは、くちばしで水をすくうと、林へ走り、オンドリに飲ませました。すると、どうでしょう。オンドリの、のどにつかえていたくるみの実が、するっと流れました。オンドリは、ひょいと起き上がって2本の足で立つと、バサバサッと羽ばたいて「コケコッコー!」とうれしそうに鳴きました。
それからというもの、オンドリは、けっしてよくばらずに、正直にメンドリとえさをわけるようになりましたとさ。
よくここまで、指示されたことをひたすら守れるなと思った。物物交換にしてはずいぶん長いなと思った。