Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【世界の深い知恵の話】小川

内容

 遠くの高い山のかくれた水源から、小川が流れだしました。山腹を下り、さまざまな土地を通って、小川は流れていきました。あるときは小躍りして、あるときはのんびりと。いっとき地下にもぐることもありました。どんな障害物があっても、小川はへこたれませんでした。

 流れていくうちに小川は砂漠のふちにたどりつきました。「また障害物に出合ってしまった」と小川は独り言を言いました。「なあに、乗り越えて進むだけのことだ。ぼくの流れをとどめたものはこれまで一つもなかった。この砂漠だって乗り越えてみせるさ。」

 小川は砂漠に向かって身を投げました。でも何度やってみても、乾いた、熱い砂に水が呑みこまれてしまいます。か細い、糸のような流れがちょっと光ったと思うと、たちまち消えてしまうのでした。

 でも小川はへこたれませんでした。ぼくの運命はこの砂漠を越えることだ。何かきっと方法があるにちがいないーーーと小川は思いました。「風は砂漠を渡って吹く。小川にだって、砂漠が渡れないわけはない。」

 「小川にだって、砂漠が渡れないわけはない。」と砂漠の砂がその言葉を送り返しました。

 そんなふうにして小川と砂漠の会話が始まったのです。「ぼくはきみを通り越して、先に行かなきゃならない」と小川は言いました。「でも、何度、きみに身を投げかけても、先に進めないんだよ。」

 砂漠は答えました。「遠くの山で役に立った方法で、わたしを通り越すことはできないよ。そんなふうに身を投げても、消えてなくなるか、せいぜい沼地になるくらいのことしかできないだろう。私を乗り越えるには、風の助けを借りることだ。風に身をまかせて運んでもらいなさい。」

 「風にぼくが運べるっていうのかい?」と小川はとても信じられないというようにきき返しました。

 「風に吸いこまれるんだよ。そうすれば、風がきみを運んでくれる」と砂漠は答えました。けれども小川は、吸いこまれるなんてとんでもないと思いました。小川はそれなりに自分らしさを、ほかのものにない特性を持っています。小川はあくまでも小川です。風に吸いこまれて自分の特性をなくすなんて、そんなのはいやだーーーと小川は思いました。砂漠は小川の不安を感じて、何とか力づけようとしました。

 「風にはそれができるのさ」と砂漠は言いました。「わたしの言うことを信じなさい。風を信じるんだよ。風に吸いこまれれば、風がきみを運んで、わたしを越えさせてくれる。向こう側に到着させてくれるよ。そうすれば、きみはまた小川として流れだす。」

 小川は半信半疑でした。「でも風に吸いこまれたら、今と同じ小川でいるわけにはいかないんじゃないかなあ?ぼくがぼくでなくなるなんてたまらないよ。」

 砂漠には小川のディレンマがよくわかりました。でも砂漠には、風の持っているふしぎな力も理解できたのです。「きみが砂の中に身を投げ出して沼地になれば、きみはまえと同じ小川ではいられなくなるだろう。だが、風に身をまかせて砂漠を渡してもらえば、きみのほんとうの心、きみの本質は砂漠の向こう側で生まれかわり、新しいコースをたどって流れだすだろう。今のきみには想像もつかない大きな川になってね。」

 小川はちょっと考えこみました。心の奥底で思い出が頭をもたげました。風の思い出、信じることのできる力強い風の思い出です。これまで手のとどかなかった地平線の向こうの、新しい出発の夢が動きだすのが感じられました。小川は深く息を吸いこみ、風の力に身をゆだねました。

 風は小川を蒸気にして吸い上げ、やさしい、力強い腕にいだき、地平線のはるか向こうの、熱い砂漠のはるか上方へと運び、見たことのない山のてっぺんにそっと落としました。そのとき、小川は自分を運んでくれた風を理解し、小川であるということがどういう意味を持っているかを悟ったのでした。

 

 

 

 

良い指導者に出会えると、新しい道に進んで何かに挑戦しようと決断ができるようになるのだろうか。信頼関係がなぜ簡単に作れたのかはわからないが、自分が自分でなくなるかもしれないというときに、何かを信じるにはかなりの熱量が必要になると思う。現状から抜け出すためには、アドバイスをもらって、自分の本質が何なのかを考える時間はじっくりとるべきだなと思う。