Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【タルムード】笛と羊飼いの杖

内容

 

むかし、偉大な王が、知恵と正義でアフガニスタン治めていた。王は狩りと旅が好きで、深い森や砂漠へ長旅をした。

ある日、広大な砂漠を旅していた王は、ふと、美しい笛の音を耳にした。笛の音のする方に馬を進めると、羊飼いが丘の上に腰を下ろして笛を吹いている。羊や牛たちは、荒れ地に点々と散っている茂みを探して、気ままに草を食んでいた。

王は馬をとめて、長くゆるやかに広がる調べに耳を澄ました。笛の調べが心に沁みいり、王はうっとりした。懐かしさで胸がいっぱいになり、夢を見ているような心地がした。馬を駆って狩りをつづけようと思いながらも、王は魔法にかかったようにその場にとどまり、調べに身をゆだね、かつてないよろこびにひたった。

羊飼いが笛を吹きおえると、王は声をかけた。

「笛の音に心を奪われた。羊の群れを持ち主に返して、わたしと都に来てはくれないか?」

「羊を放りだすわけにはいきません。持ち主に申しわけがたちませんから」と、羊飼いはいった。

「この地を治める王に城に来てくれと頼まれた、といいなさい。持ち主は、ほかの羊飼いを探すだろう。そなたはわが民を導いてくれ」王は重ねていった。

羊飼いは平伏した。

「王さまとは存じあげず、たいへん失礼いたしました。羊を持ち主に返し、都に参上いたします」

数日たって、羊飼いは城にむかった。王は羊飼いを上機嫌で迎え入れ、大臣たちに紹介した。

「この男は羊飼いで、忠実に仕事をしていた。これからは、われらが羊、われらが民を導いてくれるだろう」

羊飼いはユダヤ人だった。大人たちは城にユダヤ人を、しかも羊飼いを連れてきた王に腹を立てたが、怒りを隠して見せなかった。

羊飼いは王に気に入られた。王への助言はいつも気がきいて賢く、夕べには笛を吹いて王をなぐさめた。

しばらくして、羊飼いは大蔵大臣に任命された。山のような仕事をまかせられた羊飼いは、その仕事をていねいに心をこめてやった。民のもとに出かけて訴えに耳をかたむけ、苦しい日々の様子をしっかりと見た。民の暮らしむきがわかると、重い税金を軽くし、貧しい人たちに手をさしのべたので、人々から敬愛されるようになった。

大蔵大臣の評判が増すにつれて、ほかの大臣や重臣たちの妬みはふくらんだ。羊飼いの成功を憎み、王との友情をやっかみ、ユダヤ人である出自をあげづらい、機会があったらおとしめてやろうとした。

羊飼いは、大蔵大臣の仕事に追われていそがしくなり、王と親しくおしゃべりしたり、笛を吹くひまもなくなった。

大臣たちは、王の心が羊飼いから遠のいたいまこそ、羊飼いをうとましく思わせる絶好の機会だと、策を講じることにした。大臣たちは、王のまえに額ずいていった。

「われらが王さま、大蔵大臣に任命なさったあのユダヤ人は、国の金をつかいこんでおります。羊飼いが大蔵大臣になってから、国の収入はへるいっぽうなのをご存知でしょうか。なぜへったのでしょう?民に重税を課し、その大半を自分の懐に入れ、ほんのわずかしか国の金庫に入れていないからです」

はじめのうち、王は大臣たちの進言を信じようとしなかった。しかし、ほかの大臣たちからもくりかえし聞かされると、その話が事実かどうか調べることにした。王は警官たちの先頭にたって、羊飼いの家に財産調べに出かけた。

羊飼いの家は、質素そのものだった。わずかな家具は粗末なものばかりで、ぜいたくからはほど遠かった。

王はその様子におどろいたが、調べをつづけるよう命じた。調べているうちに、鍵のかかった部屋が見つかった。王はこの家の召使いを呼んでたずねた。

「この部屋には、なにがある?」

「存じません、王さま」召使いはかしこまって答えた。「この部屋には1度も入ったことがございません」

「入ったことがないとは、なぜだ?」と、王は聞いた。

「入るのをだれもゆるされておりません。部屋の鍵は主人が持っております。主人は自分で鍵を開け、なかに入ると鍵をかけ、部屋をのぞくことさえゆるしません。毎日、主人はこの部屋で長いことすごし、部屋を出るときには鍵をかけて、内隠しにその鍵をしまっております」

王はすぐ、「部屋のドアを開けよ」と命じた。警官が、大蔵大臣である羊飼いを呼んで、鍵をわたすよう求めた。

羊飼いは青ざめて、「ドアを開けないでください、部屋には入らないでください」と必死に頼んだ。

「ほら、申しあげたとおりではありませんか」お供をしてきた大臣の1人がいった。「この部屋に大罪を隠しこんでいるから、開けるのをいやがるのです。懐に金を隠してこの部屋に運び込んで、国の財産を隠しているのです。毎日、この部屋にその日盗んだ分をせっせと運んでいるのでしょう。だから、秘密をあばかれるのがいやで懇願しているのです」

王の怒りははげしく、憤りはすさまじった。鍵をわたされるのを待たずに、「すぐドアをたたきこわせ」と命じた。

ところが、ドアが開くと、王も大臣たちも警官も仰天した。部屋の中は空っぽ。板きれが1枚、その上に笛と羊飼いのずだ袋と杖があるきりだった。みんなは、なにがなんだかわからず、その場に立ちつくした。

王は、大蔵大臣である羊飼いのユダヤ人に聞いた。

「まことに風変わりな部屋だが、この部屋について話してはくれまいか」

羊飼いはいった。「王さまは羊飼いだったわたしを大蔵大臣にとりたてられました。任務についた日、その調べで王さまの心を魅了した笛と、羊飼いのずだ袋と杖を、わたしはこの部屋に置きました。そして、毎日、過去を思いださせてくれるこれらの品を見に部屋に入り、長い時間をすごしております。わが心がおごり高ぶらぬよう、かつて羊飼いだったことを忘れることのないよう、つねに、国のよき羊たちの、よき羊飼いたらんように、と自分に言い聞かせたかったからでございます。それに、ときとして、わが心がかつての日々を恋しがるときには、笛を吹いて調べに心をのせております」

王は羊飼いを抱きしめ、家に押し入ったりしてすまなかったと詫びた。そして、羊飼いをおとしめようとした大臣たちを交代させた王は羊飼いにいった。

「この国の民のために、いかにそなたが心を砕き、時を費やしているかが、よくわかった。しかし、夕刻になったら、笛をもって城を訪ねてをくれまいか。笛の音に2人で身をゆだねて、あの荒れた砂漠でわれらの魂が出会ったひとときを思い出したい。笛の調べで、荒れ地の静寂が生命のよろこびに満ちあふれたことを思いだそうではないか」

 

 

楽器の音や歌で癒されることは確かにあるなーと感じて、ギターをはじめたから、笛の音が心地よいのだろうなと想像できる。

資格試験の勉強に区切りがついたら、久しぶりにギター弾こう!