Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【タルムード】泣いて笑って

内容

むかし、モロッコに、新しいものやめずらしいものが好きな王がいた。王は毎日のように、「風変わりなものを探してまいれ」と従臣に命じた。王は奇妙で変わったものなら、なんでも気に入って愉快になった。王宮には、頭が2つある子牛や羽が3つの方向に生えているニワトリ、巨人や小人がつれてこられた。

ある日、王は従臣にいった。

「笑いながらなく人間を見たい」

「しかし、王様、そのような事は」従臣の1人が言った。「人間はうれしければ笑い、悲しければ泣きます。それが人間の道理というもの。泣いて笑うなど、同時にできるわけがありません」

「愚か者めが!」王は怒鳴りつけた。

従臣たちは口をひらく勇気もくじけ、静まりかえった。

ただちに、「笑いながらなく人間を見つけよ」と言うおふれが王国じゅうに出された。何日も、何週間も、調査や捜索が行われたが、どこからも、これという報告はとどかない。従臣たちは、ふるえながら王の前に進みでた。

「知恵で世界をあまねく支配しておいでの偉大なる王さま、どうかわれわれをおゆるしください。王国じゅうを探しまわりましたが、お望みの人物は見つかりません」

王は怒りのあまり、従臣たちをひねりつぶさんばかりだった。何人かを牢獄に投げ込み、何人かを王宮から追放し、残りの従臣たちをはげしく罵った。

さて、王宮には、イスラム教に改宗したばかりの元ユダヤ教徒の従臣がいて、王の秘密警察のような仕事をしていた。この男はイスラム教徒たちに気に入られようと、ユダヤ教徒である自分の家族や親戚、友だちとの付き合いをいっさい断って、ユダヤ人たちに嫌がらせをし、イスラム教徒たちにへつらって暮らしていた。

この従臣が王の前に膝をついていった。

「ひと言、申しあげてよろしいでしょうか」

「ただちに申せ!」王は声を張りあげた。「私は、お前たちの愚かさかげんや、なまけ者ぶりにうんざりして、気が短くなっておる」

ユダヤ人なら、そういう人間を探し出せましょう。悪魔の手先のようなユダヤ人は、世界じゅうの変わり者を知っておりますゆえ」と従臣は言った。

王は、ユダヤ人社会の長を呼びつけた。

1週間以内に、笑いながら泣く人間を見つけてまいれ!」

命令を聞いて、ユダヤ人たちは仰天し、恐れおののいた。そんな人間など見たこともない。どうしたらいいのかわからなかった。約束の1週間が過ぎたら、きびしい罰がくだるに違いない。長は牢獄につながれるのだろうか、ユダヤ人はまた1重税にあえぐことになるのだろうか

ユダヤ人たちは断食し、ユダヤ教会堂に集まって祈ることになった。

その日、ユダヤの旅人が1人、たまたま通りかかった。あたりを歩きまわったが、人っ子ひとり見当たらない。住人たちはどこに消えたのだろうと不審に思ったが、なにがあったのか、だれもいないのでわからない。ユダヤ教会堂のそばを通りかかると、泣き声が聞こえてきた。なかに入ると、人々が集まって、泣きながら祈っている。

旅人はおどろいてたずねた。

「なにがあったのですか?なぜ、嘆きかなしんでおいでなのですか?なにか、とんでもない災難に見舞われたのですか?」

人々は、イスラム教に改宗した従臣のこと、それから、王さまの命令について話した。旅人は話を聞いて、ぷっと吹き出した。

「わたしが王宮に行きましょう。あなた方はそれぞれの家に帰り、日々の暮らしに戻ってください。かなしみに身をゆだねることなく、食べたり飲んだりして笑っていてください」

旅人は王宮に行くとちゅう、タマネギを買って、ポケットに入れた。王宮につくと、王の前に進みでていった。

「わたしこそ、笑いながら泣く人間です」

「では、なにゆえに、笑いながら泣いておらんのだ?」と尋ねた。「ただちに目にしたい。でなければ、打ち首だ」

「仰せの通りに」旅人は答えた。

従臣たちが、旅人をとりかこんだ。旅人はポケットに手を入れ、タマネギをこっそりつぶした。たちまち、旅人の目に涙が浮かび、頬をつたいだした。と同時に、大声でアハハハと笑い出した。笑い声はどんどんはじけ、旅人は「ワッハッハっハッ」と身体じゅうをふるわせた。その様子をじっと見ていた従臣たちも、こだまするような笑い声につられて、「アッハッハッハッハツ」と声をあげて笑いだした。

ワッハッハッハッ、アッハッハッハッ

笑い声が高まるにつれて、従臣たちの目にも涙が浮かんできた。

旅人はタマネギをつぶしつづけ、からいタマネギの匂いがまた涙をさそった。匂いは従臣たちの目にまでしみこみ、従臣たちもますます涙を流し、しまいには、あろうことか思わず知らず、王まで、笑いと涙の大騒ぎに加わった。

王はユダヤの旅人を抱きしめ、みごとなとんちで王や従臣たちを楽しませてくれたお礼に、つぶしたタマネギと同じ重さの金貨と、贈りものたっぷりした。

旅人の知恵ある行動が、王の怒りからユダヤ人たちを救ってくれたと知ったユダヤ人社会の長は、こうつぶやいた。

「タマネギで流す涙だけが、口もとを笑いでゆるめる」

 

 

こういう頭の柔らかさが必要だなと思う。

謎解きのひらめきにも似てるものがあると感じるし、こういう頭の使い方を学ぶ時間が高校では少ない。中学校までに扱ってきているのだろうか?地頭の良さにもつながりそうだから、幼少期に鍛えるものなのかな。