Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【世界の深い知恵の話】やごのジェロニモ

内容

 「カエルのおじいさんはいったい、どこに行くんだろう?」とある日、やごのジェロニモがふしぎそうに言いました。「池の水面に浮かび上がってはプイッと姿を消す。でもいつの間にかまた、もどっている。」

 「きいてみたらいいじゃないか」とメダカがいたずらっぽく答えました。カエルのおじいさんが気短でやごなんか、相手にしないということを知っていたからでした。でもジェロニモは勇気をふるってきいてみました。

 「カエルさん、あのう、ひとつ、ききたいことがあるんですが、よかったら答えていただけませんか?」

 「ちっともよくはないが、何を聞きたいんだね?」

 「この世界の外って、どういうところなんでしょう?」とジェロニモはおずおずとききました。

 「どういうところかってーーー」とカエルはけいべつしたように言いました。「池の外には、まず乾いた土がある。あざやかな緑色の草が生えている草地は、金色のキンポウゲや白いデージーの花かざりだ。青い空にひろがり、白い雲がただよい、日光がキラキラ輝いている。」

 「すごいなあ!」とやごはうっとりつぶやきました。池の黒い水から出たところにひろがっている世界が、やごのジェロニモには想像もつかなかったのです。「乾いた土ですって?そんなところで泳げるんですか?」

 「泳げるものか!ばかを言うんじゃない」とカエルはクスクス笑いました。「乾いた土は水とは大違いなんだからね」とおかしそうに泡をプーッと吹きました。

 「じゃあ、土って、どういうものなんですか?」

 「小うるさいやつだな、おまえは!水の外に何があるか、見たかったら、わしの背中にのりなさい。この池の外に連れていってあげよう。自分の目で見るにかぎるからね。」

 やつぎばやの質問にうんざりしたのでしょう、カエルはこう答えました。

 ジェロニモはもちろん大よろこびで、カエルの背中にのって、さあ、出発です。

 けれども池の水面に浮かび上がったときでした。パシャン!ジェロニモはよろけて水の中に落ちてしまいました。ジェロニモは息もたえだえに水草の茎に取りついて、ショックとがっかりしたのとでブルブルふるえていました。しばらくしてカエルが顔を見せました。

 「なんておそろしいところなんでしょう、池の外って!」とジェロニモは泣き声でうったえました。「緑色の草だの、黄色や白の花だの、青い空だのって、ありもしないほら話を聞かせるなんて、ひどいじゃありませんか。」

 「ほら話どころか、みんな、ほんとうのことだよ」とカエルはきびしい口調で言いました。「おまえはせまい池の中の世界しか知らない。だから、池の外にあるものを信じる気になれないんだよ。」カエルは泳いでその場をあとにしました。

 ジェロニモは何日もカエルの姿を見ませんでした。けれども日ましに暖かくなるにつれて、ジェロニモは自分が以前の自分でなくなりかけていることに気づきました。目が大きくなり、キョロキョロと輝きはじめました。ふしぎな力が体にみなぎって、ジェロニモを上へ、上へと押し上げているようでした。ジェロニモは葦の茎につかまって、もがきながら水面の方へゆっくり浮き上がりました。弟たちが心配そうに下にあつまって、行かないでくれとてんでに呼びかけました。「ぼくたちを置いていかないで!」

 「行かなきゃならないんだ、どうしても」とジェロニモはあえぎあえぎ答えました。

 「だったら約束してよ、必ずもどるって。もどってこの池の外の世界のことをぼくらに話して聞かせるって。ぼくたちのことを忘れないでもらいたいんだ!」

 「忘れるものか!」とジェロニモはきっぱり言いました。「いつか、きっともどって、見てきたもののことを、きみたちに残らず話して聞かせるよ。」

 ジェロニモの弟たちは何日ものあいだ、彼の帰りを待っていました。でもいくら待ってもジェロニモは帰ってきませんでした。弟たちはやがて待つのをやめてしまいました。

 「ジェロニモ、やっぱりぼくたちのことを忘れてしまったんだね」と弟たちはうらめしそうに言い合いました。

 ジェロニモはもちろん、弟たちのことを忘れていませんでした。でも池にもどるわけにはいかなかったのです。彼は今では輝く羽根を持ったトンボでした。彼はその羽根に日光を浴びて飛びまわり、緑したたる野辺に咲くキンポウゲやデージーの花の上をかすめ、青い大空へと舞い上がりました。

 弟たちのことを、ジェロニモはこれからもけっして忘れないでしょう。いつの日か、弟たちも池をあとにすることでしょう。そう、いつの日か、彼らはいっしょに思うさま、空を飛びまわることでしょう。

 

 

 

疑問に思うことを教えてもらうために質問をちゃんとできるジェロニモはすごい。相手にされないかもと思っても、軽蔑されようが、笑われようが、うんざりされようが疑問に思うことを聞くことができる人は少ないと感じる。気を使いすぎて聞きたいことを聞けないようでは、自分の成長にはならないなと思う。そして、その質問に答えてくれないような相手だとさらに困る。このカエルはちゃんと質問に答えて、実際に背中に乗せて実践的に教えてくれるところが良いなと思う。

相手から質問をされにくい、質問をしづらい雰囲気を持つ人は世の中にいるが、その人にどう思われようが、自分が知りたい学びたいと思うことは聞くべきだと思う。

普段の学校での授業おいても、疑問に思うことを質問してくれる生徒は少ないなと思う。特に授業中はなかなか出ない。その習慣が長年続くと、質問自体を考えなくなり、頭を使わなくなっていってしまうなと思う。教員も生徒も、もっと頭を使って疑問に思うことを自分の言葉にしていく必要があるなと思う。