Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【タルムード】ふしぎな財布

内容

むかし、ブルガリアのある村に、貧しい農夫がいた。農夫は毎日、畑仕事に出かけ、くたくたに疲れて家にもどってきた。ある晩、農夫は寝床にもぐりこむ用意をして、神さまにお願いした。

「どうか、神さま、小さくてもいいですから、なにか宝物をお恵みください。神さま、お願いです」

くりかえし祈りながら、ふと、足もとに目をやると、財布がある。

そのとき、天から声がひびいてきた。

「その財布を、神からの授かりものとして受けとるがいい。財布には金貨が1枚、入っている。おまえがその金貨をとりだすと、また、金貨がなかにわいてくる。だが、金貨を使いたかったら、まず財布を川に捨てなければいけない。もし、財布を捨てるまえに

金貨をつかったら、財布は魚に、金貨はうろこに変わってしまうとおぼえておくがいい」

農夫はうれしくて、こおどりしてよろこんだ。その夜は夜どおし、そして、つぎの日は1日じゅう、金貨、金貨、また金貨と、財布から金貨をとりだしつづけた。夕方には、大きな袋いっぱいに金貨がたまった。

そのつぎの日、家には食べるものがなにもなくなった。それでも、農夫は金貨に手をつけようとはしなかった。

「もうひと袋分、金貨を出そう。それから財布を川に捨てにいこう。」

その日は、となりの家から食べものを分けてもらった。つぎの日には、物乞いをしに出かけた。

「ふしぎな財布を川に捨てるまえに、もうひと袋分、金貨を出したって悪くはあるまい」

こなふうに、日々がすぎていった。農夫は食べものを手に入れるために、それに、たまった金貨に手をつけたくなくて、物乞いに出かけた。物乞いからもどると、また財布から金貨をとりだした。

もう捨てようと思って、何度、農夫は財布を手にして川岸に立ったことだろう。しかしそのたびに、あとひと袋だけいっぱいにしよう。あとひと袋だけ…と考えなおすのだった。

農夫は、そのさいごの日まで、金貨をとりだしつづけた。そして、ふしぎな財布と別れるのがつらくて、金貨にはいっさい手をふれようとはしなかった。農夫は大金持ちとして亡くなった。

農夫の家には、金貨の袋がところせましとならんでいた。だが、パンのかけらひとつ見当たらなかった。

 

お金があるのに、使わずに貯めておくことは幸せなのか

ある程度の貯金は必要だと思うが、大金持ちになってからも、財布と別れられないのは不思議だ。せっかく自分の時間を使って大金を作ったのに、それを使わずに命が終わるのは虚しい。作り出したものは使って実感も湧くと思う。