Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【インドの古い話】命をすてて仲間を助けたサルの話

話に出てくる、ボーディサッタとは「のちに仏陀になるはずの人」という意味で、お釈迦様の前の世の姿のこと。

 

内容

むかしむかし、ブラフマダッタ王が、ベレナスの都で国をおさめていたころのことです。ボーディサッタがサルに生まれてきました。そしてだんだん大きくなるにつれて、せいも高く、からだもがっしりした、たくましい大ザルになって、ヒマラヤ山の山おくに八万びきのサルの手下をしたがえて住んでいました。

そのころ、ガンジス川の川岸に1本のマンゴーの木があって(バニヤンの木だったという人もあります)、大枝小枝を四方にはりひろげ、青々とした葉をおい茂らせて、大きな木かげをつくっていました。このマンゴーの木には、それはすばらしい実がなるのでした―味といい、かおりといい、まるで天国のくだものかと思われるばかりで、おまけにその大きさが、大きなつぼぐらいもありました。そうして、ある枝になった実は地面におちてきました。ある枝になった実はガンジス川の中におちました。ほかの2本の枝になった実は、木の根もとにおちました。

あるとき、王さまザルのボーディサッタが手下のサルどもといっしょに、このマンゴーの実をたべていて、ふと考えました。

(この川の中におちた実がもとで、いつか、われわれの身の上にさいなんがふりかかってくるにちがいない。)

そう思ったので、王さまザルは手下のサルどもに、川の上に出ている枝には実をひとつも残しておいてはいけない、そういう枝に花が咲いたら、ごく小さいうちにたべてしまうか、たたきおとしてしまいなさいと、命じました。

ところがここにたったひとつだけ、アリの巣のかげにかくれていたマンゴーの実が、八万のサルどもの目をのがれて、いつのまにか大きくなり、よくうれて、川の中へ落ちました。その実はだんだんに流れていきました。そしてはるか川しもの、ブラフマダッタ王が川あそびをしているところに張りめぐらしてある網にかかりました。

王さまが楽しい1日の川あそびをおえて、夕方お帰りになろうというときに、網をひいていた漁師が、マンゴーの実を見つけ、見なれないくだものでしたので、それを王さまにお目にかけました。

「これはなんの実じゃ?」と、王さまはおたずねになりました。

「わたくしどもには、どうもわかりかねます。」

「だれかわかる者はないか?」

「森の番人ならばわかろうとぞんじます。」

そこで森の番人をよばせて、たずねてごらんになりますと、それはマンゴーの実だということがわかりました。そこで、王さまはその実を小刀で切って、まず森の番人に味見をさせ、ごじぶんでもめしあがり、おきさきや大臣たちにもたべさせてごらんになりました。うれたマンゴーの、なんともいえない風味が王さまのからだじゅうにしみわたるようでした。王さまはこのおいしいくだものがもっとたべたくなりました。それで番人に、この実のなる木はどこにあるのか、と、たずねてごらんになりますと、ヒマラヤの山おくの川の岸に生えているということです。王さまはさっそくたくさんのいかだをつくらせ、森の番人を道案内にして、川をさかのぼっていきました。

何日ぐらいかかったものか、それははっきりわかりませんが、とにかくやがて一行は目ざす場所にたどりつき、森の番人は王さまにむかって「あれが、その木でございます。」と、申しあげました。王さまはいかだをとめさせ、大ぜいのおともの人々をしたがえて、マンゴーの木のほうへ歩いていらっしゃいました。そうして、木の根もとにベッドをしつらえさせ、マンゴーの実をたくさんめしあがって、そのすばらしい味わいをこころゆくばかり楽しんで、そこでおやすみになりました。まわりには見張り番をおいて、夜どおし、たき火をもやさせました。

ま夜中に人々が寝しずまったころを見はからって、王さまザルのボーディサッタは、手下のサルどもをつれて、やってきました。八万びきのサルは枝から枝へと渡りあるいて、マンゴーの実をたべました。王さまはふと目をさまし、たくさんのサルが集まっているのをごらんになって、家来をおこし、射手たちをよばせて、

「サルがマンゴーの実をたべておる。あいつらを逃がさぬように取りかこんで、射殺してしまえ。あしたはマンゴーの実といっしょに、サルの肉をたべることにしよう。」と、言いました。

射手たちは「かしこまりました。」と、言って、マンゴーの木をとりまき、弓に矢をつがえて身がまえました。

サルはそれを見ると、殺される思ってふるえあがり、逃げることもできないので、王さまザルのところへいて、

「おかしらさま、たくさんの射手がこの木を取りかこんで、『サルどもが逃げだすところを射てしまえ。』と、言っております。どうしたらいでしょう。」と言って、ガタガタふるえながら立っていました。

「こわがることはない。わたしが命を助けてやるから。」

と、王さまザルは言って、手下のサルをなだめました。それからそびえ立っている高い木によじのぼり、そこからガンジス川のほうへつき出ている枝をつたっていって、その枝のはしからひらりと身をおどらせ、百メートルの長さをとびこしてガンジス川のむこうの岸の草むらの上へとびおりました。おりると、「これだけとんだのだな。」と言って、とびこえた距離をよくはかりました。それから1本の竹の茎を根もとから切って、枝や葉をはらい、「これだけは木に結びつけるぶん、これだけは空中をわたすぶん。」と言って、それだけの長さにこしらえました。けれど、じぶんのこしにしばりつけるぶんを足すのを、うっかりわすれていました。

それから、茎のかたほうのはしを、ガンジス川の向こう木にむすびつけ、もうかたほうのはしをじぶんのこしにむすびつけて、ものすごい勢いで、百メートルの空間をとびこえました。ところが、じぶんのこしにむすびつける長さを、がんじょうに入れておかなかったものですから、こちらの木までとどかず、王さまザルは両手でマンゴーの木の枝にしっかりしがみついたまま、手下のサルどもにあいずをしました。

「さあ早く、わたしの背中をふみこえ、ツタのつるをつたって、うまく逃げなさい。」

八万のサルはみな、王さまザルのボーディサッタにあいさつし、わかれをつげると、その背中の上をわたって逃げていきました。

このサルの仲間のなかに、日ごろからボーディサッタのことをねたんでいたデーヴァダッタというサルがいました。そのサルが、橋のかわりになっているボーディサッタを見て、(いまこそ、にくいやつをやっつける時だ。)と思い、高い枝によじのぼって、そこからボーディサッタの背中めがけて、力いっぱいにとびおりました。ボーディサッタは心臓が破れ、はげしい苦しみにおそわれました。デーヴァダッタは、相手が苦しみにたえかねているありさまをしりめにかけて、いってしまいました。王さまザルのボーディサッタはひとり取りのこされました。

王さまはこのあいだ、ずっと目をさましていたので、ボーディサッタとサルたちのしたことをすっかり見ていました。そうして、(あのサルは、けものでありながら、じぶんの命をかえりみず、仲間をぶじに逃がしてやったのだ。)と、考えながら、王さまは横になりました。

さて夜があけると、王さまザルのボーディサッタに感心した王さまは、(あのサルの王さまを殺してしまってはいけない。あれをなんとかして木からおろして、手当てをしてやろう。)と、思いました。そこでガンジス川にいかだをこぎ出させ、その上に足場をつくって、ボーディサッタをそっと取りおろしてやりました。そうして背中に黄色い衣をきせ、ガンジスの水で体をあらいきよめ、さとう水をのませて、念入りにつくった油薬を、きよらかなからだにぬってやりました。それから、床の中に油をぬった毛皮をしいて、その上にサルをねかせ、王さまご自身はひくいいすにこしをかけ、つぎのように申しました。

 おまえはじぶんを橋にして

 みんなをぶじに逃げさせた

 おまえはみんなの何なのか

 みんなはおまえの何なのか

王さまザルのボーディサッタは、王さまを教えさとして言いました。

 

 わたしは王です この群れを

 守るがわたしの役目です

 みんなはあなたをこわがって

 不安になっておりました

 

 ひらりとわが身をおどらせて

 百ひろほどもとびました

 じぶんのこしにしっかりと

 竹の茎をば巻きつけて

 

 風にちぎれた雲のよう

 マンゴーめがけてとびついた

 あぶないところで手をのばし

 枝をしっかりつかまえた

 

 枝と竹にひっぱられ

 ぐっとのばしたわたくしの

 からだをふんでらくらくと

 サルたち逃げていきました

 

 しばられようが殺されようが

 わたしはちっともくやまない

 わたしのけらいのサルたちが

 ぶじでくらしているならば

 

 もののたとえのことば

 あなたのためのよい教え

 じぶんの国の人や馬

 兵士も村もしあわせに

 みなたのしくとねがうのが

 まことの王のつとめです

 

こう王さまに教えさとしながら、王さまザルのボーディサッタは、息をひきとりました。王さまは大臣たちをよんで、サルの王さまのために、人間の王さまと同じように、お葬式をおこなうことを命じました。また、おきさきたちにも、

「喪服をきて、髪をたばねず、手にたいまつを持って、サルの王の野辺おくりにいきなさい。」と、言っておやりになりました。大臣たちは、車に何台分ものたきぎをつんで、火葬の用意をしました。そして王さまたちのお葬式と同じように、ボーディサッタの火葬をすませると、その頭蓋骨をひろって、王さまのところへ持っていきました。

王さまは、ボーディサッタのなきがらを焼いた場所にお寺をたてさせ、おあかりをあげ、香と花たばなどをささげさせました。また、頭蓋骨は金でかざりつけをして、ヤリの先にかかげ、行列のまっさきに立て、香や花たばなどをささげながら、王さまはべレナスの町にもどりました。そして、それを宮殿の門の前にかざって、町じゅうにもかざりつけをさせて、七日間のあいだ、ボーディサッタのためのお祭りをおこないました。それからこの頭蓋骨を尊い記念として、寺をたててそこにまつり、王さま一生のあいだ、香や花たばなどを絶やさなかったということです。

王さまは王さまザルのボーディサッタの教えをかたく守り、つとめて慈善やそのほかのよいおこないをつんで、自分の国を正しくおさめましたので、ついに天上に生まれかわることとなりました。

 

 

 

 

サルの王さまとして、自分が犠牲になって仲間を逃してあげる姿はとても立派だと思う。その姿を見た王さまが、見習って、教えを守って良い行いを続けていくことも簡単なことではないからすごい実行力だと思う。

ただ、上に立つ者は、自分ですべてやろうとせずに、もっと他の部下などに任せたり、動かすように指示することも必要かなと思う。何でも自分だけでやろうとすると、特に大人数のとき無理が生じたときどうにもならなくなる。