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【タルムード】クンツを羊の群れに放っておけ

内容

「クンツを羊の群れに放っておけ」ということわざがある。

どうして、クンツが羊の群れに放っておかれることになったのか、そのわけをお話ししよう。

むかしむかし、偉大な王さまがいた。王さまには相談役が何人もいて、クンツはその相談役の1人だった。王様に助言を求められると、相談役たち全員が集まって問題をくわしく検討し、クンツが王様に進言することになっていた。

進言するとき、クンツは手柄をひとりじめしようとして、「この優れた助言はわたしが思いついたもので、知恵もなく機転もきかない他の相談役たちは、私の意見に感心して賛同しました」といい、そのようにふるまった。人のい王さまはクンツのことばを信じ、クンツは相談役のなかでも群を抜いて賢い男だ、と思っていた。

当然ながら、ほかの相談役たちは、王さまがクンツをひいきにしているのを見て腹を立てた。それというのも、相談役のなかでクンツはいちばん愚かだったからだ。

ある日、相談役たちは集まって、クンツに対する王さまの態度を改めてもらうにはどうしたらいいか、話し合った。それから、王さまのもとに参上した。

「王さま、こんなことを申し上げるのは畏れおおいのですが、われわれ相談役は全員、クンツはわれわれより愚かだと承知しております。王さまはなにゆえに、クンツがわれわれより優れているとお考えなのでしょう。お教えください」

「なにゆえかといえば」と、王さまはいった。「そなたたちが協議して決定事項を私に伝えてくるのはクンツで、クンツはそのたびに、自分の提案を知恵のないほかの相談役たちは褒めそやした、といっていたからだ。いずれにしても、わたしはそなたたちをおろそかにをして来なかったし、大事に思っておる」

王さまのことばに相談役たちは大いによろこび、これで、どうやってクンツをやりこめたらいいかわかった、と勇みたった。

「王さま、クンツは嘘ばかり申しております。クンツには知恵というものがありません。今後は、相談役それぞれに個別に相談なさってみてください。クンツ1人で問題が解けるはずがありませんので」と、相談役たちはいった。

王様さま、ただちにクンツを呼びよせた。

「大事な臣下よ、そなたがこの王宮ではもっとも優れ、もっとも信頼のおける相談役だと思っておる。じつは、問題を抱えているのだが、そなた以外に打ち明けたくはない」王さまはつづけていった。「そなたが答えを見つけたら、ほうびをどっさりとらそう」

自分は頭が切れると思っているクンツは返事をした。

「尊敬する王さま、どうぞ、打ち明けてください、お答えできると存じますし、だれにも明したりしません」

「3つ、気になっていることがある」王さまはいった。「まず、太陽はどこから昇るのか?つぎに、天と地の距離はどれくらいか?3番目は、クンツよ、いまわたしは何を考えているか?」

王さまの3つの問題を聞いて、クンツはいった。

「むずかしい問題ですので、すぐにお答えするわけにはまいりません。考える時間をください。3日いただければ、答えがわかるかもしれません」

「大事なクンツよ、そなたが望む通り3日あたえよう。3日後には答えをもってまいれ」

クンツが王宮を辞すと、物思いに沈んで歩いた。騒々しい街の中では考えがまとまらない、田舎にいってじっくり考えよう。

クンツは田舎にある所有地に出かけた。そして、ぶつぶつ考えごとをつぶやきながら、羊たちが群れている、広々した牧草地を歩いた。

「だれが、太陽はどこから昇るのか教えてくれよう?天から地までの距離を、だれに聞けばいいのだろう?王さまが考えていることなにか、だれか…」

近くに、クンツのところで働いている羊飼いがいた。羊飼いは、ぶつぶつつぶやきながら歩いている雇い主を見かけて声をかけた。

「だんなさま、どうやら心配事がおありのようですが…。ひょっとしてお手伝いできるかもしれませんので、よろしければお話しください」

クンツは考えた。もしかしたら、この羊飼いがなにか助言してくれるかもしれん。話しても損にはならんだろう。

「じつは、大変な心配事をかかえていてな。王さまの3つの問題を解かねばならん。解けなければ、まちがいなくわしはクビになる。だが、いくら考えても、答えがみつからんのだ」

「3つの問題とは、なんですか?」羊飼いは聞いた。「あっしにわかるかもしれません」

クンツは思った。話してみよう。こいつは案外、賢い男かもしれんぞ。

「じつはな、王様の3つの問題とは、太陽はどこから昇るか、天と地の距離はどれくらいか、それと、いま王さまが何を考えておいでか、の3つだ。どうかな?」

羊飼いは、そんなにややこしい問題ではないと思い、雇い主にいった。

「だんなさま、そのきれいなお召しものをあっしに貸して、代わりにあっしの服を着て、羊の番をしていてください。あっしが王さまに会って、問題を解いて、それから、もどってきます。そしたら、だんなさまはクビにはならんでしょう」

クンツは提案を受け入れ、自分の美しい衣装と羊飼いの服とを交換して、羊の番をはじめた。

3日後、羊飼いは王さまのもとに参上した。

「王さま、答えをもってまいりました」

「そうか。して、太陽はどこから昇る?」王さまは聞いた。

「太陽は東から昇り、西に沈みます」羊飼いは答えた。

「では、天から地までの距離は?」

「ぴったり、地から天までの距離と同じです」羊飼いはいった。

しまいに、王さまがたずねた。

「いま、わたしはなにを考えているか?」

「いま、王さまは相談役のクンツさまと話しているとお考えですが、じつはそうではありません」と、羊飼いはいった。「あっしは、クンツさまに雇われた羊飼いにすぎません。クンツさまが、自分の代わりに王さまの問題を解いてくれと、あっしを王さまのもとに寄こしました。クンツさまは、いま、あっしの代わりに羊の番をしています」

羊飼いの言葉を聞いて、王さまはいった。

「今日ただいまから、そなたは相談役として王宮にとどまるように。クンツには羊の番をさせておけ」

ここから、ことわざが生まれた。

「クンツを羊の群れに放っておけ」

そして、そのとおりになったのだった。どうか、われわれがそんなことにはならないように!

 

 

ことわざの元となる話でおもしろいな。

人の知恵を自分の手柄のように扱うのはおかしいね。でも確かにそういう人はいるなと思う。自分だったらそんなこと恥ずかしくてできないな。

自分で理由を説明できるくらいわかっていないことを自信満々に人に話せないなと思う。