Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【タルムード】腹をすかせたオオカミと知恵者のキツネ

内容

 

賢者たちは、ユダヤ教の教えを物語やたとえ話や説話にして、弟子たちに伝えてきた。そういう伝承説話をアガダと言う。賢者ラビ・メイールはキツネの出てくるアガダを語るのが得意で、その数は300ともいわれている。つぎの話は、そのうちの1つである。

 

ある日、オオカミがキツネに胸のうちをもらした。

「腹が減へってたまらん。グルグル腹が鳴る。長いことなにも食わないと、力がぬけちまう。おまえ、ちょっとでも腹にたまるものがありそうな場所を知らないか?」

「ええ、知ってます」キツネは答えた。「オオカミさんが食べ物にありつけそうなところを知ってますよ」

「どこだ、すぐ教えてくれ!」オオカミは怒鳴った。

「ただし、ただでありつけるってわけにはいかないんです。働かなくちゃいけません」キツネはいった。

「食いものが手に入るなら、どんなことだってやる。なにをしたらいいか、すぐ教えてくれ」オオカミは、乾いたくちびるをなめながらいった。

「今日は金曜日です。ユダヤ人たちは、安息日のごちそうを作るのに大いそがしですから、ユダヤ人の村に行って、どこかの家で手伝うんですよ。お礼に、食べものをどっさりもらえるはずです」

オオカミはキツネのすすめどおりに、村はずれのユダヤ人の家に走っていって中庭に入り、その家の主人を探した。と、いきなり、その家の人たちが騒ぎだした。

「オオカミだ!オオカミがいるぞ!」

となり近所の人たちも叫び声を聞きつけ、棒やほうきや鍬を手にして、オオカミを追いかけた。女たちはほうきでひっぱたき、石を投げた。男たちは鍬や鋤で力まかせにたたいた。オオカミは命からがら逃げだして、森にもどった。

「どうしました?」キツネが聞いた。「食べものもらえなかったんですか?オオカミさんの料理がまずかったんですかね?」

「あいつらに、もうちょっとで殺されるところだったぞ。たたかれたり殴られたり、石を投げつけられたりした。おれを罠にかけたな」オオカミはわめいた。「腹がすいてたまらん。こうなったら、おまえを食べてやる。腹ぺこのオオカミとはどういうものか、思い知るがいい」

「待ってください」キツネはいった。「だましたり罠にかけたりなんかしていません。ユダヤ人たちは心根が良くて親切で、だれにでも食べものや住むところを分けてくれるんです」

「だったら、なぜおれは血が流れるほど殴られたんだ?」オオカミは泣いた。

オオカミさんが憎くて殴ったんじゃないでしょう。きっと、オオカミさんのお父上のせいです」キツネはいった。「おれの親父のせい?」オオカミは金切り声をあげた。

「ええ」キツネはいった。「腹ぺこだったお父上は、かつて、ユダヤ人の家に出かけて、安息日のごちそう作りの手伝いを申し出ました。その家の主人はよろこんでお父上を家に招き入れ、台所につれていきました。ところが、お父上は大変な食いしん坊で、台所にあった晩餐用の肉や魚に飛びついてムシャムシャとむさぼり、ほとんどをたいらげてしまったのです。残ったのは、パンと粉が少しだけ。家の主人も家族たちも、ごちそう用に集めた上等な食材を食べてしまったお父上のやり口に腹を立て、仕返しを誓ったのです。先ほど、オオカミさんが行ったとき、ユダヤ人はそのことを思い出し、鍬や石で追いかけまわしたんでしょう」

「そいつは偽りのない話なのか、それとも、おれをからかっているのか?」オオカミが聞いた。

「たしかで、偽りのない話です」キツネははニヤリとした。「オオカミさんは、お父上がした悪さの罰を、代わりに受けてしまったんですね。でも、キツネのわたしは、大事な友だちを見捨てるような事はしません。食べものがどこにあるか、お教えしましょう」

腹ぺこのオオカミはキツネのあとについていった。2匹は深い井戸にたどり着いた。井戸の上には滑車のついた梁があって、歌滑車の両側にたれている縄の端には、それぞれ水桶が結わえつけられていた。

キツネは水桶に飛びこみ、ガラガラと音をさせて井戸のなかにおりていった。

「どこにいく?」オオカミはあっけにとられて、水桶に乗っておりていくキツネにむかって叫んだ。

「井戸の底ですよ。井戸をのぞいてごらんなさい。大きなチーズが見えるでしょう?」キツネは、井戸の水に映った月を指さしていった。

「腹ぺこなんだ。チーズを全部くっちまうなよ。ちょっとは残しといてくれ」

「おりてきて、腹いっぱい食べたらどうですか?」キツネが叫んだ。

「だけど、どうやっておりたらいい?」

「簡単です。上にある、もうひとつの水桶に入るんですよ。水桶がチーズのかたまりまで、まっすぐ運んでくれます」と、キツネは叫んだ。

オオカミが水桶に飛びこんだ。オオカミは太っていて重かったので、水桶はガラガラと音を立てて井戸の底にむかい、代わりにキツネの水桶がひっぱりあげられた。キツネは急いで水桶から出ると、井戸のへりに立った。

「チーズはどこだ?それに、ここから出るにはどうしたらいいんだ?」心配になってオオカミが聞いた。

「そこからは永遠に出られません」キツネはあざけっていった。

「あたりを見まわしてごらんなさい。見まわしているうちに、お父上にも会えるでしょう。そしたら、ユダヤ人のところでお父上がたらふく食べた安息日のごちそうを、分けてもらえるかもしれませんよ」

オオカミが泣いても、もう返事はなかった。策略に長けて、抜け目のないキツネは、さっさと井戸をあとにしながらつぶやいた。

「正しい人は苦難におちいっても助けだされ、悪しき者は代わってそこに落とされる」

だがキツネは、さほど行かないうちに、ライオンにぶつかったのだった

 

 

キツネはずる賢いというイメージがあるのは、昔話によく出てくるからかな。

やはり人から聞いたことをそのまま信じるのはどうなのかとも思う。自分で調べる力も必要だなということかな。