Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【世界の深い知恵の話】石工の願い

内容

 

 むかし、あるところに一人の石工がいました。山に登ってはせっせと石を切りだす毎日でした。仕事をしながら石工は歌をうたいました。貧乏でしたが、多くを望まず、何の気苦労もなく暮らしていました。

 ある日、石工は貴族の屋敷に呼ばれて仕事をしました。そのずばらしい建物を見たとき、石工は生まれてはじめて、胸の痛むようなあこがれの思いに駆られました。「おれも金持ちだったらなあ!汗水たらしてしこしこ働く必要もないだろうに」と彼はため息をつきました。

 そのときでした。声が聞こえたのです。「おまえの願いは聞かれる。今後は何でもおまえの願いどおりになるだろう。」石工はどんなにびっくりしたことでしょう。何が何だかわからずに、石工がその夜、家に帰りますと、みずぼらしかった小さな家は、その日、彼がうらやましく思った屋敷とそっくり同じようなすばらしい建物に変わっていました。石工は石を切りだすことをやめて、ぜいたくな暮らしをするようになりました。

 ある蒸し暑い午後、石工だった男が屋敷の窓から外を見ますと、その国の王さまが、お供の貴族や奴隷をぞろぞろ引き連れて通りました。「王様だったらなあ!暑さ知らずで、馬車に揺られて町を見物できるのに。」

 彼の願いはすぐ聞きとどけられ、気がつくと王さまの馬車の中にすわっていました。ただ馬車の中は思ったより暑苦しくて、男は窓の外を眺めて馬車の厚い壁さえ通り抜ける太陽の熱に感嘆しました。「太陽だったらなあ!」と男は思いました。と、またまた彼の願いは聞かれ、彼は太陽になって、熱の波を宇宙に送りこんでいました。

 しばらくすべては具合よく運んでいました。ところが何日か雨降りがつづきました。彼は雲の厚い壁を通り抜けようとしたのですが、思うようにいきませんでした。そこで男は雲になって、太陽の熱をさえぎることのできる自分の力にいい気持ちになりました。次に彼は雨になったのですが、いまいましいことに、行く手をさえぎる大岩にぶつかりました。彼は仕方なく大岩のまわりをグルッと回りました。

 「たかが岩じゃないか。岩がおれより強いというのか?だったらおれは岩になりたいよ。」

 彼は今度岩になって、山腹に立ちはだかりました。でも自分の雄々しい姿にうっとりする暇もなく、足もとでカチンカチンという音がしました。見下ろすと小さな人間がすわりこんで、石を切り出しています。

 「おやおや、あんなちっぽけな人間がこのおれよりえらいというのか?だったら、おれは人間になりたいよ!」

 そんなわけで、彼はもういっぺん、人間に、石工にもどりました。毎日、山に登って石を切りだし、汗を流してせっせと働きました。でも彼の心には歌があふれていました。石工である自分に、自分の手のわざによって得たものに満足していたからでした。

 

 

 

 

自分よりほかがよく見えるという話かな。自分の今を楽しんでいればそれで良いのに他のものになろうとしている。自分の仕事に誇りをもって、良さに気づけば他に気をとられずにできるということかな。他のものを全部試せて実感できるのは良いなと思う。そうやって試して遠回りする時間もあってよいのではとも思う。