AI vs 教科書が読めない子どもたち
著者:新井紀子
あらすじ
①シンギュラリティ(技術的特異点。人間の脳と同レベルのAIが誕生すること)は起こり得ない。
②AIに負けないためには、AIが苦手とする読解力が肝となる。
③限定的なフレームでしか計算できないAIに勝つには、柔軟に文章の意味を理解し応用させる力が必要となるので、そういった教育をしていくべきである。
これらを説明するために、著者が開発したRST(Reading Skill Test)基礎的読解力を調査するテストの問題がいくつか書かれていた。
Q1 偶数と奇数を足すと、答えはどうなるでしょうか。次の選択肢のうち正しいものに〇を記入し、そうなる理由を説明してください。
(a)いつも必ず偶数になる
(b)いつも必ず奇数になる
(c)奇数になることも偶数になることもある
答えは(b)でそれは採点に含めず、「理由」をみる。
偶数と奇数は整数mとnを用いて、それぞれ2m+1,2nと表すことができる。そしてこの2つの整数の輪は2m+1+2n=2(m+n)+1となる。
m+nは整数なのでこれは奇数である。
正解率は34%。理系に限ると46.4%になる。
最も多い誤答は、偶数を2mとし、同じ変数mを使って奇数を2m+1と表し、2m+(2m+1)=4m+1で奇数としたもの。
これでは2+3や10+11のような連続した偶数と奇数の和が奇数になることしか示せていない。
このミスは理工系では致命的になる。ディープラーニングの論文などが読めないことになる。数学の答案は数学者しか本当の意味で採点できないと考えられている。
深刻な誤答は
ex1) 2+1=3,4+5=9 →例示と証明の違いが分かっていない。
ex2)全部やってみたらそうなった →無限に存在する偶数+奇数を全部やってみることは不可能(ふざけているのではなく、いろいろ試した形跡がある)
ex3)偶数を奇数にするためには、偶数を足してもダメだが、奇数を足せば良い →問われていることをそのまま繰り返している「トートロジー型」
ex4)三角と三角を足したら四角になるのと同じで、四角と三角では四角にならないから →たとえ話と証明の区別がついていない
論理的なキャッチボールができる能力を身につけないまま大学生になる。そのままの状況では、大学として教育できることは限られている。学生も得られるものは少ない。
Q2 次の報告から確実に正しいと言えることには〇を、そうでないものには×を記入せよ。
公園に子どもたちが集まっています。男の子も女の子もいます。よく観察すると、帽子をかぶっていない子どもはみんな女の子です。そしてスニーカーをはいている男の子は1人もいません。
(1)男の子はみんな帽子をかぶっている
(2)帽子をかぶっている女の子はいない
(3)帽子をかぶっていて、しかもスニーカーをはいている子どもは1人もいない
正しいのは(1)のみ。
(2)「女の子は誰も帽子をかぶっていない」とは言っていない。確実に正しいとは言えない。
(3)正しいとは言えない可能性がある。
論理的な読解と推論の力 > 学習量、知識、運
文章を論理的に読めるようになるとしたら、まず文がどこで区切られるか、文節を理解する。
「何がどうした」という主語述語の関係、修飾語と被修飾語の関係を理解する→「係り受け解析」
「それ」「これ」という指示代名詞が何を指すかを理解する→「照応解決」
文の構造を理解した上で生活体験や常識、さまざまな知識を総動員して文章の意味を理解する→「推論」
文章を図形やグラフを比べて内容が一致しているかどうかを認識する→「イメージ同定」
定義(国語辞典的な定義、数学的な定義)を読んでそれと合致する具体例を認識する→「具体的同定」
Q3 天の川銀河の中心には、太陽の400万倍程度の質量をもつブラックホールがあると推定されている。
この文章において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢から1つ選べ。
天の川銀河の中心にあると推定されているものは( )である。
①天の川 ②銀河 ③ブラックホール ④太陽
答えは③
Q4 火星には、生命が存在する可能性がある。かつて大量の水があった証拠が見つかっており、現在も地下には水がある可能性がある。
この文章において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢から1つ選べ。
かつて大量の水があった証拠が見つかっているのは( )である。
①火星 ②可能性 ③地下 ④生命
答えは①
この文章が表す内容と以下の文が表す内容は同じか。「同じ」か「異なる」のうちから答えよ。
答え 同じ
Q6 エベレストは世界で最も高い山である。
この文に書かれたことが正しいとき、以下の文に書かれたことは正しいか。「正しい」「まちがっている」これだけからは「判断できない」のうちから答えよ。
エルブルス山はエベレストより低い。
答え 正しい
Q7 次の文の内容を表す図として適当なものをすべて選べ。
四角形の中に黒でぬりつぶされた円がある。
答え ①②
Q8 2でわりきれる数を偶数という。そうでない数を奇数という。
偶数をすべて選べ。
①65 ②8 ③0 ④110
答え ②③④
Q9 仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアに主に広がっている。
この文脈において、以下の文の空欄にあてはまる最も適当なものを1つ選べ。
オセアニアに広がっているのは( )である。
答え②
Q10 Alexは男性にも女性にも使われる名詞で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
この文脈において、以下の文の空欄にあてはまる最も適当なものを1つ選べ。
Alexandraの愛称は( )である。
①Alex ②Alexander ③男性 ④女性
答え ①
愛称という言葉を知らない子どもはそれを飛ばして読むという習性がある。
Q11 アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
この文脈において、以下の文の空欄にあてはまる最も適当なものを1つ選べ。
セルロースは( )と形が違う。
答え ①
これは難易度の高い問題。大人でも間違える問題らしい。
Q12 幕府は、1639年ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
この文が表す内容と以下の文が表す内容は同じか。「同じである」「異なる」のうちから答えよ。
1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。
答え 異なる
Q13 次の文を読み、メジャーリーグ選手の出身国の内訳を表す図として適当なものをすべて選べ。
メジャーリーグの選手のうち28%はアメリカ合衆国以外の出身の選手であるが、その出身校をみると、ドミニカ共和国が最も多くおよそ35%である。
答え ②
「以外の」や「のうち」という語句を読み飛ばすか、その使い方がわからない。
「イタリア料理以外のレストラン」をsiriは理解できない。
Q14 次の文の内容を表す図として適当なものをすべて選べ。
原点Oと点(1,1)を通る円がx軸と接している。
答え ①
表層的理解はできるけど、推論や同義文判定などの深い読解ができない場合、文章を読むのは苦ではないのに、中身はほとんど理解できていないということが起こり得る。
コピペでレポートを書いたり、ドリルと暗記で定期テストを乗り切ったりすることはできる。レポートの意味やテストの意味を理解できない。AIに似ている。→AIに代替されやすい。
問題を読まずに、ドリルをこなす能力が最もAIに代替されやすいのである。
今の大学生の半数は学力試験を免除されるAO入試や推薦入試で大学へ入る。問題に出てくる数字を使ってとりあえずなんらかの式に入れて「当てようとする」。
フレームが決まっていると、子どもは教える側が期待しているのとは別の方法でそのフレームのときだけ発揮できる妙なスキルだけを偏って身につけてしまう。
AIはフレームが決まっているタスクを最も得意とする作業としている。人間よりはるかにスピードが速く、エラーも少なく、安価。
求められるのは、意味を理解する人材。AIに代替されない人材。
ex)1,3,5,7の平均はいくつか?
国民の半数以上が公式を使って((1+3+5+7)/4=4)正しく答えることができるのは日本とシンガポールくらい。
平均の意味はわかる?
Q ある中学校の3年生の生徒100人の身長を測り、その平均を計算すると163.5cmになりました。この結果から確実に正しいといえるのは次のうちどれですか?
①身長が163.5cmよりも高い生徒と低い生徒はそれぞれ50人ずついる。
②100人の生徒全員の身長をたすと、163.5×100=16350cmになる。
③身長を10cmごとに「130cm以上140cm未満」「140cm以上150cm未満」…というように区分けすると、「160cm以上170cm未満」が最も多い。
答え ②
①は中央値、③は最頻値のこと。
それが何を意味しているか、それがどんなリスクを含んでいるのかを理解する人が求められる。
AIの中身となる、数学を理解する人間を世界的に奪い合っている。自分とコミュニケーションが取れないような数学出身者を使いこなすことができない日本は出遅れている。
ホームページを作れるだけでは、10年で価値は暴落する。重要なのは、新しいソフトウェアを使いこなすことができるかではない。その中身、使うべきポイントや弱点を論理的に理解しているかどうか。
教えてもらうだけでなく、自分でテーマを決めたり、自分で調べたりして学習し、グループで話し合ったり、議論したり、ボランティアや職業体験に参加する。
教科書に書いてあることを理解できる→自ら調べる→自分の考えを論理的に説明したり、相手の意見を正確に理解できる、推論できる→友人と議論できる
「推論」が正しくできない人が集まってグループディスカッションすると、誤答が、その人たちの中で1番確からしい解答になってしまう。
ex)星は今光って見えるから、今輝いているように見えるかもしれないけど、遠いところにある星の光が地球に届くまでには時間がかかる。
だから今見ている星の光は何万年も前に輝いた光である。
1年に光が進む長さを1光年という。
では太陽は?
太陽の発した光が地球に届くのには8分くらいかかる。
何が正しいのか確認できなければだめ。ネットに「正解そのもの」は書いてないかもしれない。正しい情報から正しく推論してどの答えが正しいかを判断しなければならない。
仕様書を正しく理解して、手順通りに作業をし、「ほう れん そう」がきちんとできる、当たらい前の人材が必要。
読めない部分は読み飛ばして、なんとなく全体をわかったつもりになっているのではダメ。
柔軟になる。AIが得意な暗記や計算に逃げずに、意味を考える。
生活の中で不便に感じていること、困っていることを探す。
自分が1人で不便に感じることではビジネスにならない。こういうサービスが欲しかった、ちょうど困っていた、という人がそれなりにいてビジネスになる。
男性より女性の方が困っていることが多く、他者との共感能力が高い。
読んだ感想
著者が数学者ということもあってか、数学的な問題も多くあって、とてもわくわくしながら読めた。問題を自分でも実際に解きながら読むことで、子どもがどんなところにひっかかるのか、どうしてこれが理解できないのか、が少し見えてきた。
これを読んでさらに、高校生の論理的思考力は鍛える必要があるし、なぜなのかを考える習慣もつけていく必要があると実感した。ハブルータにもつながっていくなーと感じる。
数学の授業の中でも、教え方に工夫が必要になることに気付かされた。
知らない単語は子どもは読み飛ばすし、教科書を読めばわかるだろうと思っていたけれど、それができない生徒もいることを知って言われてみればそうだと実感した。
ただ知識を与えるのではなくてどんなときに使うべきか、使うとどんな風に役立つか(こんな問題が解決できる)とより具体的な問題に落とし込むことで生徒の理解につながる思った。
このRSTの問題を開発するという行動力にも驚いたし、この問題が面白いので、続編の「AIに負けない子どもを育てる」という本も読むことにした。
スタンフォード大学などが公開しているオンライン講義を勝手に視聴する、のように動画でいろんなことが学べる時代になっているから、そういったものも活用していく方法があるなと知った。