Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【タルムード】死神の使い

内容

これは、アラブの男の話である。アラブの男は、抜き身の剣のを手にした男の夢を見た。

ぎらりと光る剣を目にして、アラブの男は恐ろしさのあまりちぢみあがった。だが、勇気をふりしぼって聞いた。

「どちらさまですか?」

「死神だ。おまえがこの世をおさらばするときが来たので、この剣で魂をもらいにきた」抜き身の剣の男がいった。

男は死神にすがりついて頼んだ。

「ああ、死神さま。どうかお聞きください。わたしは、神さまの御恵みによって、息子や娘をたくさん授かりました。ですが、貧乏で、子どもたちに残してやるものがなにひとつありません。どうか、お慈悲です。わたしが死んだあとも、子どもたちが食べていけるよう、財産をたくわえさせてください。それまで、どうか猶予をおあたえください……」

男の必死の頼みは、死神の心を動かした。死神は剣を鞘におさめていった。

「よし、今回だけはおまえの頼みをきいて、魂をとらずにおいてやろう。だが、このつぎ、おれがやって来たら、もう、おれの手からは逃れられんぞ!」

「ありがとうございます。死神さま。ですが、このつぎのときは、お使いの方をまえもっておよこしください。死への怖れをとりのぞいて、真実の世界だといわれているあの世に旅立つ用意をいたさねばなりませんので。」アラブの男はいった。

男は、目を覚ました。

夢だった。

男はいつものように仕事に出て、夢のことも、死神のことも、忘れてしまった。

 

男は長生きをした。財をなし、息子や娘たちを結婚させ、孫やひ孫が生まれた。そして年老いて、ついに死期がおとずれた。男は病を得て、床についた。

と、死神が枕もとにあらわれた。手にぎらりと光る剣をもって、魂をもらいにきたという。

アラブの男はいった。

「おいでになるまえには、心の準備ができるよう、お使いの方をおよこしくださいと申しあげたはずですが……。なぜ、いきなりおいでになったのですか?」

死神がいった。

「おまえというやつは、格別に慈悲をあたえられて、生き延びさせてもらったというのに、わがままなやつだな。死への支度ができるよう、おれは何年もかけて、順々に使いを7回送ったんだぞ。そいつらはみな、いまもおまえのもとにいるだろうが」

男はびっくりしていった。

「わたしをからかうのですか?お使いの方など見かけませんでしたが」

死神はワッハッハッと大笑いしていった。

「それでは、おれが使いを送った証拠を、7つ数えあげてみせよう。

第一は、目だ。かつては、遠くのものでもはっきりと見えた。なのに、最近ではほとんど見えまい。

二つ目は、耳。むかしはささやき声でも聞きとれたというのに、このごろは、角笛さえも聞こえないだろう。

三つ目は、歯。若いころには石さえ嚙み砕けるほど頑丈だったのに、いまは1本も残っていないではないか。

四つ目は、髪だな。子どものころの、カラスみたいに真っ黒だった巻き毛も、すっかり抜けて禿げあがり、わずかに残る髪も白く変わっているだろうが。

五つ目は、背すじだ。若いころには、ナツメヤシの木のようにピンと張っていた背すじも腰も、弓のように曲がってしまったではないか。

六つ目は、足。かつては二本の足でしっかり踏ん張っていた。それなのに、いまでは足もともおぼつかない。杖がなくては、ふらついて歩けなかろうが。

七つ目は、食欲。むかしは口にするものすべてがうまかったのに、このごろは、どんあなものも口に合うまい。

さあ、七つの使いの証拠をあげてみせたが、なにかいうことがあるかね?みんな、おまえとともにいるではないか」

男はなにもいえなかった。たしかに、老いを感じだしたときから、心の準備をすべきだったのだ。男は、すなおに死神に魂をゆだねた。

 

老いを感じ出したときから、老後の準備をする

将来のための準備を少しずつはじめることに似ているなと思った。

もしも今の仕事がなくなったとしたら、どうするか?ということを考えるようになってから、先のことを意識して生活するようになった気がする。

老いに関しても、少しずつ変化していると毎日向き合う自分では気づきにくいから、将来のことはあらかじめ意識的に考えていく必要があると思う。