内容
ある町で、トヴィヤという男が、家で学問に励んでいた。あるとき、通りかかった子どもたちの一団が、トヴィヤの家のまえでさわぎだした。子どもたちの甲高い声がうるさくて、学問に集中できなくなったトヴィヤは、窓から顔をつきだして叫んだ。
「子どもたち、急いでユダヤ教会堂に行きなさい!怪物がいるぞ。すごい怪物だ!」それから、つけ足していった。「足が5本、目が3つ、ヤギみたいなひげを生やしてるぞ。しかも、緑色のな!」
子どもたちはワァッと歓声を上げ、ユダヤ教会堂に駆けていった。トヴィヤは学問にもどった。
だが、それほどしないうちに、またさわがしくなった。騒々しすぎて、学問に集中できない。窓からのぞくと、何人ものユダヤ人が声高にしゃべりながら走っている。
「どこに行くんですか?」トヴィヤは聞いた。
「ユダヤ教会堂だよ!」と、1人が返事した。「聞いてないのかい?怪物が出たんだ。足が5本に、目が3つ、ヤギみたいなあごひげは緑色だそうだ!」
トヴィヤはフッフッと笑って、学問にもどった。
ところが、数分もたたないうちに、外がまたがやがやしだした。窓越しに、大人や子ども、男や女が走っているのが見える。
「どうしたんです?」トヴィヤは窓から身を乗りだして、走っている人に声をかけた。
「どうしたって?」と、その人は大声でいった。「知らないのかい?ユダヤ教会堂の前に怪物がいるんだよ。5本足で目が3つで緑色のヤギひげの怪物だ!」
トヴィヤは走っている人の群れをながめていたが、そのなかに、町の偉いラビがいるのに気がついた。
「おやまあ」トヴィヤはうめいた。「ラビ御自らお出ましになるなんて、きっと、ユダヤ教会堂のまえに、何かいるんだろう。火のないところにけむりは立たない、というじゃないか!」
そうつぶやくと、トヴィヤは本をとじ、コートをはおって、帽子をかぶり、人々にまじって、ユダヤ教会堂めがけて走り出した。
自分で言い始めたことなのに、信じてしまうのかーと思う。気づかないものなのかな?自分で言い始めた間違った情報は、どんどん広まっていくから、訂正することは難しいということを示しているのかな。自分の発言することには責任をもつ必要があるということが教訓なのかな。