Actions speak louder than words.

行動は言葉よりも雄弁

【チェコの昔話】おやゆびこぞう

内容

 

あるところに、子どものいない夫婦がおりました。ふたりは神さまに、せめてひとりでもいいので息子を授けてください、とお願いしました。神さまは、その願いを聞き入れました。

ある日、だんなさんが畑をたがやしにでかけると、家にいたおかみさんに、ひょっこり息子がうまれました。親指ほどしかない小さな息子だったので、女将さんがすぐに「おやゆびこぞう」と、名づけました。

おやゆびこぞうは、すこし変わった子どもでした。なにしろ、うまれるとすぐに元気に動きまわったのです。台所で走ったり、とんだりはねたり歌ったりしました。そして、お昼ごはんの時間が近づくと、おかみさんをよびました。

「母さん、母さん、ぼくが畑にいる父さんに、お弁当を持っていくよ」

おかみさんは、すこし変わったこの子を上からのぞきこみ、「おやまあ、なにをいいだすのかしら」と思いながら、胸の前で十字を切りました。小さな体のおやゆびこぞうにお弁当を運んでもらうわけにはいきません。でも、おやゆびこぞうは、「どうしてもも 持っていく」といってききません。おかみさんはしかたなく、だんなさんのお弁当を、かごに入れました。

すると、どうでしょう!おやゆびこぞうは、かごを頭の上にひょいと持ちあげて、そのまま畑をめざして走っていったのです。おやゆびこぞうの姿は、かごの下にすっぽりかくれて見えません。まるで、かごがひとりで道を走っているように見えました。ほこりっぽい道だったので、おやゆびこぞうは腰まで土ぼこりにまみれました。

でも、そんな事は気にせず、いさましく進みました。

ところが、小川まで来ると、川をわたるための橋も板もかかっていません。「いったい、どうしたら、むこう岸にいけるのかなぁ」と、おやゆびこぞうは考えました。

おやゆびこぞうは、かしこい子どもでした。いいこと思いついたのです。かごに入っていた木のスプーンを、小川にうかべると、それはまるで小船のようでした。おやゆびこぞうは、スプーンに乗りました。かごはどうしたかというと、むこう岸まで引っぱったのです。

おやゆびこぞうは岸へ上がると、頭の上にかごをのせ、畑をたがやしているだんなさんのところへ行って、すこしはなれたところからよびかけました。

「父さん、父さん、お弁当を持ってきましたよ!」

でも、だんなさんの耳には、おやゆびこぞうの声はとどきませんでした。なにしろ、だんなさんは、自分に息子ができたことを知らなかったのですから。うまれたばかりの子どもが、畑にお弁当を運んでくるなんて、夢にも思わなかったでしょう。

おやゆびこぞうは、父さんにむかってずっとさけんでいました。そして、ついに父さんのすぐそばまで来たのです。だんなさんは、なんだか「ブーン」という音がするような気がして、あたりを見まわしました。すると、自分の目の前にかごがあることに気がづきました。もちろん、おやゆびこぞうの姿は見えません。「おや、かごがひとりでこの畑までやってきたのかねえ」と不思議そうに、かごをながめました。そのときはじめて、おやゆびこぞうの姿を見つけたのです。

「ぼくは、今朝うまれた父さんの息子です」と、おやゆびこぞうは、あいさつをしました。「今朝うまれたばかりなのに、もう弁当を持ってきたのかい?息子よ、それじゃあ、まるで魔法のようだな!」と言って笑いました。それから、だんなさんはすわってお弁当を食べはじめました。

おやゆびこぞうは、「父さんがお弁当を食べているあいだ、ぼくにむちを貸してください。そうしたら、牛を追って畑をたがやしますよ」といいました。

「息子よ、むちは重たい。持ちあげるのは無理だ。いったい、どうやって牛を追うつもりだい」と言って、だんなさんは笑いました。

「じゃあ、むちを使わずに牛を追います」そういうと、おやゆびこぞうは、牛の背中にひとっとび。そして、牛の耳にもぐりこんで、大声で叫 さけびました。

「どう、どうどう!」牛の耳の中で、すさまじい音がひびきわたりました!牛はおどろいたのなんの。急に走り出して、畑のはじからはじへ、ものすごいいきおいで行ったり来たりをくりかえしました。こうして、おやゆびこぞうは、だんなさんがお弁当を食べているあいだに、だんなさんが午前中にたがやした土地より、ずっと広い土地をたがやしてしまいました。

おやゆびこぞうが、牛を追ってたがやしている畑にそって、広い道が通っていました。ちょうど、町の市場から戻ってきた商人が、家に帰ろうとその道を歩いていました。すると、人の姿が見えないのに、牛だけが畑をたがやしているのを見て、ふしぎに思いました。「この、いさましい牛をよく見てやろう」と思って、商人は牛に近づきました。すると商人は、どこからか牛を追いたてる声がするのに、気がつきました。驚いた商人は、耳をそばだてました。すると、どうでしょう。

「ほら、ぼくはここです!牛の耳の中にいます!」

商人が牛の耳の中をのぞくと、そこに、おやゆびこぞうがいました。商人はこの小さな牛飼いのことが、とても気に入りました。牛をどんどん追い立てて畑をたがやす働き者なのに、体がとても小さいので、ごはんはすこしですむはずです。この牛飼いをぜひほしい、とけちんぼうの商人は思いました。

「どうだい、うちに手伝いに来る気はないか」と、おやゆびこぞうに聞きました。

「父さんがゆるしてくれたら、行きますよ」と、おやゆびこぞうは答えました。それから、鉄砲玉のように、すばやく牛から飛びおりました。そして、父さんのところへ行って、耳元でささやきました。

「父さん、ぼくを商人に売ってください。安売りしちゃだめですよ!ぼくのことは心配いりません。すぐに父さんのところにもどってきますから。ぼくたちの後ろから、すこしはなれてついてきてください」

商人は、だんなさんのところへやってきて、「この働き者の男の子を売ってくれないか」と聞きました。だんなさんは、5000なら売る、といいました。商人は、だんなさんにお金をはらうと、おやゆびこぞうを自分のかばんに入れて家に帰っていきました。

だんなさんは、おやゆびこぞうのいったとおり、商人の後ろからすこしはなれてついていきました。おやゆびこぞうは、商人のかばんの中で穴を開け、ついにその穴をすりぬけてかばんから外へにげだすと、父さんのところいそいでもどっていきました。

商人は、そんなことはつゆ知らず、わが家に帰りつきました。門をくぐる前から、まちきれずに大きな声でおくさんをよびました。

「おーい、今帰ったぞ。おまえさんのために農夫を買ってきた。大きな男でびっくりするぞ!」

商人は、おくさんの前でかばんを開けると、手でごそごそと、中を探りはじめました。おやゆびこぞうを取りだして、あっとおどろかせるつもりでした。でも、どうしたことでしょう!かばんの中は、すっからかんでした。

「こりゃ、どうしたこった!たしかにおやゆびこぞうを入れてきたのに、こっちにも、こっちにもいない!」

商人はぼうぜんとして、からっぽのかばんを見おろしました。

おくさんは、さっきから夫がなにをしているのか、ふしぎそうにながめていました。大きな男をつれてきたはずなのに、小さなかばんの中を探して「いない、いない」とあわてている夫の姿がおかしくなって、とうとうふきだして、おなかをかかえて笑いだしました。

 

 

 

初めて読んだ話だった。タイトルからおやゆび姫に似てるのかと思ったけど違った。

とても賢い子どもだなと思った。そして思いついたアイデアを実行したことがないのに成功しているところがすごい。経験を積まずに成功する作戦を思いつくなんて。