内容
あるところに、年老いた母親をお世話する、貧しい木こりがいました。ある日、木こりは山で大きなトラに会いました。
「これでもう、私の命は終わった」と、絶望的になった木こりは、一か八かでトラの前にひれふし「兄さん!」と泣き出しました。
木こりを食べようとしていたトラは戸惑いました。
「どうして俺が、お前の兄さんなんだ?そして、どうして俺を見て泣くんだ?」
木こりはこう続けました。
「母がこう話していました。『お前の上には、兄さんが1人いたのだが、産んですぐにトラになって、山に戻っていった』と。その後から母は、兄さんの行方を知ることができずに、毎日山を見上げては、涙を流して過ごしていました。あなたを見た途端、私の兄のように思えたのです。それで泣いています。」
地面をたたきながら涙を流し、自分を兄と呼ぶ木こりの姿を見ながら、トラはこう思いました。
「そういえば自分を生んでくれたのが、誰かもわからず生きてきたが、実は母も弟もいて、自分のことを恋しがっている家族がいたのかもしれない。」
トラは木こりを食べることなんて、とてもできなくなりました。トラは、木こりに木の枝をあげながら、母親の元に戻り自分に合ったことを伝えてくれるように頼みました。
その次の日から、トラは木こりの家に訪ねていきました、
母親は大きなトラを目の前にして、ブルブルと震えながらも、木こりに言われたとおりにトラに話しかけました。
「あ~息子よ、どこに行っていたんだね。私がこんなに年老い、お前の弟がこんなに大きくなった後に、こうしてやっと訪ねてきたんだね。」と泣きました。
やっと自分の家族を見つけたと思ったトラは、その日から夜になると木こりの家に小動物の肉を届けてあげ、弟が結婚できるようにと、奥さんになる女性まで連れてきました。
トラのおかげで、貧しかった木こりは豊かになり、「トラに出会って幸運を手にした家」とうわさになるほどでした。
そして歳月が経ち、母親が亡くなると、トラは村人を呼び集め、山の獣たちを1匹ずつ連れてきました。
最初は怖がった村人でしたが、トラたちと遊んでいるうちに、すっかり仲良くなりました。
トラはその後3年間、母親の墓の前で孝行を尽くした後に、気力を使い果たして死にました。
トラは、母親の横に埋められました。
木こりの一家はその後も幸せに暮らしたと言われています。